第四話 変化の兆しその十一
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苦い顔と声でだ、優花に返した。
「何でもないわ」
「本当に?」
「そうよ、何でもないわ」
「お家のお金のこととか?」
「そんなの全然困ってないでしょ」
「まあね」
「ちゃんとお金入れてるから」
このことはだ、優子は自信を以て言えた。
「そうした問題じゃないわ」
「じゃあ何?」
「だから何でもないのよ」
またこう言った優子だった。
「気にしないでいいから」
「お仕事で悩んでるとか」
「仕事で悩むのは常よ」
「いつものことなんだ」
「それでどうこう考えたりするのはいつものことよ」
「お医者さんは大変なんだね」
「医者だけに限らないわよ」
仕事の上でのことで悩み苦しむことはというのだ。
「どの仕事でも同じよ」
「悩みを抱えるものなんだね」
「それでストレスを感じるのはいつもよ」
「いつもだったら」
「今飲んでるのはそんなことじゃないわ」
事実を隠してだ、優子は焼酎を浴びる様に飲み突きつけられた現実を洗おうとしていた。その現実と話しつつ。
「お仕事のことではね」
「あの人と何かあったとか」
「そういうのでもないわ、それに失恋してもね」
それでもというのだ。
「その時は一日飽きるまで飲んで忘れてやるわよ」
「そうだね、姉さんはそうした人だね」
「だからね」
それでとだ、また言った優子だった。
「そんなことじゃないのよ、自分のことなら」
「姉さんのことなら」
「そんなの軽いのよ」
自分自身の問題はというのだ。
「自分のことであれこれ悩んでも他人に迷惑はかけないものよ」
「そういうものだね」
「だから違うから」
「それじゃあだね」
「そうよ、私のことで飲んでないから」
「じゃあ一体」
「気にしなくていいのよ」
ここでだ、優花には関係のないことだと言う選択肢がないことにだ。優子は心の中でこの上なく苦く思った。
だがそれを隠してだ、こう言ったのだった。
「何もね」
「だといいけれど」
「ねえ優花」
今回も弟を見ずに声をかけた。
「私ずっと貴方のお姉さんだったわよね」
「?そうじゃないの?」
「そうよね、ずっと二人だけの姉弟で」
自分に言い聞かせる様にだ、優子は言っていった。
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