第5部 トリスタニアの休日
最終章 剣と私怨
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ロインを。こういうわけなのです。是非ともこの喜劇にお付き合いくださいますよう」
「あいにくと、悲劇の方が好みですの。こんな猿芝居には付き合いきれません」
「命が惜しくば、私の脚本どおりに振る舞うことですな」
アンリエッタは首を振った。
その目が確信に光る。
「いえ、今日の芝居は、わたくしの脚本なんですの」
「あなたの施政と同じように人気はないようですな。残念ですが、座長としては、没にせざるをえませんな」
役者に扮したメイジたちに杖を突き付けられているというのに……、アンリエッタは落ち着き払った態度を崩さずに言い放つ。
「人気がないのは役者の方ですわ。大根役者もいいところ。見られたもんじゃありませんわ」
「贅沢を申されるな。いずれ劣らぬアルビオンの名優たちですぞ」
「さて、舞台を降りて頂かないと」
それまでざわめき、おびえていたはずの若い女の客たちが……。
アンリエッタのその言葉で目つきを変え、一斉に隠し持った拳銃を抜いた。
アンリエッタに杖を突き付けていたリッシュモンの配下のメイジたちはその光景に驚き、動きが遅れた。
ドーン!という、何十丁もの拳銃の音が、一つに聞こえる激しい射撃音。
その音は音響を考慮された劇場の中、雷鳴のように轟いた。
もうもうと立ち込める黒煙が晴れると……、役者に扮したアルビオンのメイジたちは各々何発も弾をくらい、呪文を唱える間もなく全員が舞台の上に打ち倒されていた。
劇場の客全員が……、銃士隊の隊員たちであった。
リッシュモンが怪しいと見抜けなかったのも無理はない。
銃士隊は全員が若い平民……、それも女性で構成されていたからだ。
アンリエッタはどこまでも冷たい声で隣の観客に告げた。
「お立ちください。終劇ですわ。リッシュモン殿」
リッシュモンはやっとのことで立ち上がった。
そして高らかに笑う。
銃士たちが一斉に短剣を引き抜いた。
気がふれたかのような高笑いを続けながら、突きつけられた剣に臆した様子もなくリッシュモンはゆっくりと舞台に上る。
周りを銃士隊が取り囲む。
何か怪しい動きをすれば、一気に串刺しにする態勢であった。
「往生際が悪いですよ!リッシュモン!」
「ご成長をうれしく思いますぞ!陛下は立派な脚本家になれますな!この私をこれほど感動させる芝居をお書きになるとは……」
リッシュモンは大仰な身振りで、周りを囲む銃士隊を見つめた。
「陛下……、陛下がお生まれになる前よりお仕えした私から、最後の助言です」
「おっしゃい」
「昔からそうでしたが、陛下は……」
リッシュモンは舞台の一角に立つと……、足で、どん!と床を叩く。す
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