第5部 トリスタニアの休日
最終章 剣と私怨
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だったのですか?」
「主君の娘に、愛想を売らぬ家臣はおりますまい。そんなこともわからぬのか。だからあなたは子どもだというのですよ」
アンリエッタは目を瞑った。
自分は何を信じればよいのだろう?
信じていた人間に裏切られる、これほどつらいことがあるだろうか?
いや……、裏切られたわけではない。
この男は出世のために、自分を騙していただけなのだ。
そんなこともわからぬ自分は、やはりリッシュモンの言う通り、子どもなのかもしれない。
でも、もう子どもではいられない。
真実を見抜く目を……、磨かなくてはいけない。
そして、真実を口にした時、動かぬ心をもたねばならない。
毅然とした口調でアンリエッタは告げた。
「あなたを、女王の名において罷免します、高等法院長。おとなしく、逮捕されなさい」
リッシュモンはまるで動じない。
そればかりか、舞台を指さして、さらにアンリエッタを小ばかにした口調で言い放つ。
「野暮を申されるな。まだ芝居は続いております。始まったばかりではありませんか。中座するなど、役者に失礼というもの」
アンリエッタは首を振った。
「外はもう、魔法衛士隊が包囲しています。さあ、貴族らしく潔さを見せて、杖を渡してください」
「まったく……、小娘がいきがりおって……。誰を逮捕するだって?」
「なんですって?」
「私に罠を仕掛けるなど、百年早い。そう言ってるだけですよ」
リッシュモンは、ぽん!と手をうった。
すると、今まで芝居を演じていた役者たちが……、男女6名ほどであったが、上着の袖やズボンに隠した杖を引き抜く。
そしてアンリエッタめがけて突き付ける。
若い女の客たちは、突然のことに震えてわめき始めた。
「黙れっ!芝居は黙ってみろっ!」
激昂したリッシュモンの……、本性を現した声が劇場内に響く。
「騒ぐ奴は殺す。これは芝居じゃないぞ」
辺りは一気に静寂に包まれた。
「陛下御自身ででいらしたのが、ご不幸でしたな」
アンリエッタは……、小さく呟いた。
「役者たちは……、あなたのお友達でしたのね」
「ええ。はったりではありませんぞ。一流の使い手ぞろいです」
「でしょうね、役者とは思えぬ酷い演技でしたもの」
リッシュモンはアンリエッタの手を握った。
その手の感触のおぞましさにアンリエッタは鳥肌が立つのを覚えた。
「私の脚本はこうです。陛下、あなたを人質に取る。アルビオン行きの船を手配してもらう。あなたの身柄を手土産に、アルビオンへ亡命。大団円ですよ」
「なるほど。この芝居、脚本はあなた。舞台はトリステイン。役者はアルビオン……」
「そしてあなたがヒ
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