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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第四十四話 撤退命令
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「では各自撤退準備に入れ、ミューゼル中将、卿は残れ」
誰も居なくなった会議室に俺とミュッケンベルガーが残る。ミュッケンベルガーは俺に背中を見せている。少し気落ちしているようだ。無理もない、もう少しで大勝利を得られたはずなのだから。
「ミューゼル中将。今回の戦い、見事であった」
「はっ」
「…無念だ」
「…」
「中将、私は運の無い男だな」
「! 何を仰られます。我が軍は勝ったでは有りませんか」
「しかし、止めをさせなかった…」
「それは…」
「…無念だ」
俺は何も言えなかった。ミュッケンベルガーの気持ちが痛いほどわかる。もしかするとミュッケンベルガーは泣いているのではないだろうか。そんな事を思わせる背中だった。気を取り直して声をかける。自分でも驚くほど優しい声が出ていた。俺はこんな声が出せたのか?
「閣下、再戦の機会があります、それを待ちましょう。今回の戦い、決して無駄ではありません。敵に大きな損害を与えたのです。帝国の優位はより大きくなりました。運が無いなどと仰られてはいけません」
ミュッケンベルガーは苦笑したようだ。俺の慰めなど返って侮辱にでも感じたか。
「そうだな。宇宙艦隊司令長官にまでなった男が運が無いなどといっては、死んでいった者達に怒られよう。私は勝った! そして卿やヴァレンシュタインのような部下もいる。不運などではない」
ミュッケンベルガーがこちらを振り向いた。驚くほど柔和な眼をしている。この男はこんな目をする男だったか…。
「見るが良い」
ミュッケンベルガーは懐より通信文を取り出し俺に差し出した。
“帝都オーディンはヴィルヘルミナの加護を願う”
「オーディンはかなりまずい事になっているようだ」
「はっ。“ヴィルヘルミナの加護を願う”ですか」
「それも有るが、発信者を見たか?」
発信者? 慌てて見る。軍務尚書エーレンベルク元帥、帝都防衛司令官代理ヴァレンシュタイン大将…帝都防衛司令官代理? ヴァレンシュタイン大将?
「閣下、これは」
「おそらくヴァレンシュタイン少将を帝都防衛司令官代理にしてオーディンの治安を任せたのだろう。大将というのはよくわからんな」
「…」
「卿も判っていよう。オーディンは内乱の危機に有る」
「はっ」
その通りだ。フリードリヒ四世は後継者を決めていない。馬鹿が、おかげでこの有様だ。
「軍務尚書は事態が自分の手に負える状況ではないと判断したのだろうな」
「それでヴァレンシュタイン少将を」
「うむ。おそらく陛下は意識も無かろう。意識があれば後継者を指名させれば良い。それが出来ぬ状態にあるのだろう」
「…」
「私が居ればな。ブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯も抑える事が出来るのだが。こうなってみるとヴァレンシュタ
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