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おぞましい鏡
2部分:第二章
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第二章

「まあフル装備でいきますんで」
「だから大丈夫ですか」
「あの鏡のところに行っても」
「はい、今度の当直の時にちょっと行って来ますね」
 先生はとても明るく言い切った。ビールを飲み続けながら。
 そして程なくしてその当直の日が来た。先生は。
 まずは畳と粗末な台所でもある水洗い場のある当直室で持って来た本を読みインスタントラーメンの夕食を食べた。当直の先生としては妥当と言える一連の行動だ。
 そうしてからだ。真夜中になるのをあえて待って。
 それからだ。懐中電灯を手に校内の見回りに出た。
 まずは校門の辺りに校庭だ。静まり返っている学校の中は不気味なものだった。木々が今にも動きそこから何かが出る様に見える。
 しかし何もない。時折虫が見える位だ。そこは何もなかった。
 そしてだ。校内もだ。
 確かに暗く静まり返り不気味だ。しかしだ。
 やはり何もない。廊下の窓から黄色い月とそれに照らされる雲が見えるだけだ。他には何もない。
「何もないじゃないか」
 いつもの当直と変わらないとだ。先生は思った。そしてだ。
 問題のだ。そのだ。
 職員室の前に来た。その鏡の前にだ。先生はここで左手の腕時計を見た。時間は。
 十二時だ。真夜中だ。その時間に来たのだ。
「さて、何が起こるやら」
 何もないと確信してだ。先生はその鏡の前に来た。そして。
 鏡を見た。先生の全身がそこにあった。ただそれだけだ。
 やはり何もなかった、こう思いだ。その鏡の前を去ろうとした。
 だがここで。急に。
 鏡からだ。あるものが出て来たのであった。
 それは何かというと。顔中髭だらけで髪を短く刈った大柄な中年の男だった。
 服は着ていない。今時という感じの白ブリーフ一枚だ。そこに黒いナイロンの靴下と皮靴だ。町でその格好に出れば瞬時に通報される姿だった。
 その男がだ。鏡から出て来てだ。
 先生ににじり寄って来て。不気味な笑顔で言ってきた。
「布団を敷こう、な!」
「ふ、布団!?」
「そう、ここで布団を敷こう」
 こうだ。不気味な笑顔で言ってくるのである。
「いいな、それじゃあな」
「布団を敷いて一体何を」
「決まっているだろ。愛し合うんだよ」
 先生が最も聞きたくないことだった。
「いいか、誰にもばれないようにしろよ」
「あの、僕」
 そのブリーフ全身毛だらけの男にだ。先生は真っ青になって言い返した。
「そうした趣味は」
「ないのか?」
「ないです」
 そのことをだ。必死に主張した。
「ですから遠慮します」
「おい、それはないだろ」
 だが、だ。男はまだ言うのだった。しかもだ。
 先生がちらりと見た男の股間は。富士山になっていた。
 しかもそこも毛だらけでギャランドウだ。見たくもない。

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