第1章始節 奇縁のプレリュード 2023/11
5話 融骸の怪
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櫃堂。櫃の堂。
何かを収める箱を指す櫃と、儀礼的な建物を指す堂。
ダンジョンの冠する名が既に体を表すが如く、その最奥の様子は薄ぼんやりと想像できた。しかし、趣で言うならば明らかに予想と別物であっただろう。
「………ねえ、スレイド君、これはちょっと………ねぇ?」
グリセルダさんも、やんわりと拒絶の意思を含んだ声で語り掛けてくる。
それほどに異質な空気が、このダンジョンには眠っていたのだ。
最奥の空間は円形。中央に石櫃が安置され、その周囲に堀が巡らされている。完全に孤立した浮島となっているが、堀自体は飛び越えるにも苦にならない程度。しかし、その堀を満たしているのが無数の人骨と石像の残骸となれば、さしもの俺も眉間に皺が寄るというもの。この亡骸が男の言っていた試練に挑んだ者の姿なのだろうか。それにしては、おびただしい人骨に反して、この場には脅威になりそうな存在は見受けられない。
おまけに立地的な条件にあって完全な暗闇であり、暗視スキルを習得していなければ、うっかり堀に踏み込んでしまっていたかも知れない。グリセルダさんにも自衛として目薬アイテムで暗視状態になってもらったが、結果として表情を引き攣らせる要因となった。
「さっさと取るモノとって帰るぞ」
「最後の最後にアンデッド系なんてオチじゃないでしょうね………」
「だったら、いっそ分かりやすくて助かるけどさ。《師匠》なら問題ないだろう」
「………その呼び名を出されると、不思議とホラー要素がなくなっちゃうのよね」
「考えたやつは天才だな」
アンデッド系、殊にスケルトン系は風化してしまうからか、カルシウムが抜け落ちてしまうからか定かではないが、脆くなってしまった為に防御力は低く設定される傾向にある。その代わりに、生前の技巧は死後もなお冴え渡り、軽くなった身体と相俟って神速の剣術を見舞うことで知られる。そんな彼等を誰が呼んだか《スケルトン師匠》という呼び名が一時期流行ったくらいだ。うちの相棒は怯えてしまい、会い見えることはついぞ叶わなかったが。
………などと、《師匠》というネーミングについてあれやこれやと語るうち、後方から水面を割る音が反響する。それなりに広い空間だ。石畳ともなればどこかが窪んで水が溜まることもあるだろうが、暗視を続けているうちに水溜まりなど目に留まっただろうか。
――――いや、そもそも、俺の後方を歩くグリセルダさんの足元からしかこの音がしないのは何故だ?
恐る恐る、後方に目をやると、グリセルダさんは不思議そうに首を傾げて見せるのみだ。
その足元に、黒い水溜まりが蠢いていることを無視すれば、至って普通のグリセルダさんだっただろう。だが、その違和感を看過できるほ
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