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第一章
喋らせる
高木盛道は学校の中で無口で知られている。彼が入学してからもう三ヶ月経つがとにかく喋らないのだ。
当然表情も変わらない。それでよくゴルゴ13だの何なりと呼ばれている。
その無口な彼を見てだ。周囲は言うのだった。
「ひょっとして喋れないのか?」
「だよな。教科書読むのもな」
それもどうかというのだ。授業中にあてられてだ。
「目で読むだけだからな」
「とにかく全然喋らないからな」
「誰が何を言っても」
とにかくだ。無口どころではなかった。全く喋らないのだ。
その彼の無口さは校内でも話題になっていた。それでだ。
友人達もだ。彼に問うのだった。
「あの、どっか悪いのか?」
「喋れないとかか?」
「そうなのか?」
心配して言う言葉にはだ。彼は。
無言で首を横に振る。何処も悪くないというのだ。
それならだと。彼等は今度はこう尋ねた。
「じゃあ俺達が嫌いとか」
「それで喋らないのか?」
「だからか?」
「俺達友達じゃないのか」
こうした問いにもだ。首を横に振る。確かに無口だが人付き合いはあるのだ。人が困っているとそっと助けてくれる。そうした人間だ。
だがだ。とにかく喋らないのだった。まさにゴルゴの如くだ。
いつも無言で親切にしてもらっている友人達はだ。今度はこんなことを言った。
「まさか。サイボーグか」
「それで喋られないのか」
「だから無口だっていうのか」
「それでか?」
だが少し考えてみてだ。誰もがサイボーグ説は否定した。普通の学校にそうしたものが来る筈がない。ましてや盛道は普通のサラリーマンの家の息子だ。余談だが妹がいるらしい。
だからだ。それはないとすぐにわかったのだった。
では何故喋らないのか。周りは余計に不思議に思った。
「絶対に何かあるよな」
「無口にしても異常だしな」
「それだと理由は何だ?」
「何で喋らないんだ?」
周りはこう考えだ。それでだった。
彼をどうして喋らせるか。そういう考えに至った。
それでだ。まずはだ。
彼の席に落語研究会の人間が来てだ。彼の席の前に椅子を持って来てそこに正座してからだ。早速落語をはじめたのである。
その落語は面白い。かなりのものだ。まだ高校生なのにそれこそ志ん生に匹敵するまでの落語を見せた。だがそれでもだ。
彼は喋らない。表情も変えない。全くだ。
これで落語は失敗した。次は。
漫才だった。漫才研究会のホープ二人が来た。
「食うたら美味いんかい!」
「頼むでしかし!」
かつての天才漫才コンビを彷彿とさせる見事な漫才が行われる。
ハリセンまで使ってだ。その漫才が彼の前で繰り広げられるがそれでもだった。
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