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通り雨
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第二章

「僕達に気付いたら」
「何されるかわからないわよね」
「うん。若しくはね」 
 俊彦はさらに言う。
「ヤクザ屋さんがいてさ」
「ヤクザ屋さんが」
「それで薬とかの取引をしてるとか」
 話はさらに物騒なものになった。不良よりもグレードアップした。
「そういうのだったらどうしよう」
「そんなの見たら生きて帰れないじゃない」
 理恵もまた顔を曇らせてだ。そのうえで言うのだった。
「ヤクザ屋さんの麻薬の取引なんて」
「そんなんだったらどうしよう」
「見つかったら終わりよ」
 理恵は言った。
「私達コンクリート詰めにされて南港行きよ」
「南港の水って冷たいらしいね」
「滅茶苦茶冷たいらしいな」
 そんな物騒な話になっていく。
「もうね。二度と入りたくない位にね」
「そうだよね。南港はね」
「ううん、まずいわよ」
 理恵は言う。
「ここにいたらね」
「けれど雨は」
 見ればだ。雨はだ。
 余計に強くなっていた。二人の前に広がっている草むらもだ。濡れそぼっている。雨音はむしろ廃屋の中の声よりも大きいものになっている。
 その雨を見てだ。俊彦は言った。
「ここに出たら」
「もう濡れて仕方なくなるわね」
「それこそ風邪だよ」 
 俊彦はまた風邪の話を出した。
「風邪ひいちゃうよ」
「風邪どころか肺炎かも」
 理恵の話はグレードアップした。風邪から肺炎に。
「そうなるのはやっぱり」
「嫌だよね」
「じゃあここに雨宿りするしかないけれど」
「若しもよ」
 理恵は心配そのものの顔で俊彦に言う。
「本当にヤクザ屋さんだったら?」
「口封じで」
 またその話になる。
「やっぱり南港に」
「永遠に寒中水泳よね」
「そうなるよね」
「不良でもやっぱり」
「リンチとか」
「どっちにしても最悪じゃない」
 身の危険があることは確かだった。どっちにしてもだ。
 それを話してだった。俊彦は。
 意を決した顔になってだ。こう理恵に尋ねた。
「もうさ。こうなったらね」
「こうなったら?」
「中、見てみる?」 
 そのだ。廃屋の中をだというのだ。
「見てみようか」
「実際に何がいるのか」
「それを見ようよ。それで確めてから」
「逃げるかここにいるのかを決めるのね」
「そうしよう。ここであれこれ言っても何にもならないし」
「そうね」
 言われてみてだ。理恵も頷いた。
 そしてそのうえでだ。こう俊彦に答えた。
「わかったわ」
「そうするのね」
「とにかく。相手が何でも」
 そのだ。不良でもヤクザ者でもだというのだ。

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