既死廻生のクレデンダ 後編
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成されるありとあらゆる部分を半自動的に最適化しつつ、人間特有の鋭敏な感覚を強化した理想個体だ。
太古の昔に存在したリザードという原生生物が体の一部を自在に切り離せたという伝承をヒントに、破損の激しい部位や異常をきたした部位を細胞レベルで切り離して代価パーツと付け替える機能もあったが、どちらにしろこの世界では代価肉体を用意するのが一苦労なのでなくとも構わないだろう。OTの補助があれば『まるで肉体があるような現象』を起こすことも出来る。
一先ず、身体能力の確保を出来る限り最適化する。このままでは歩行もままならない。先ほど行った膜電位への干渉は高次元領域を知覚することで可能になる認識論的なプログラムである。つまり、OTを介さずとも多少の事象干渉は可能だ。今できる事をする。
「血管強度……筋肉繊維質……皮膚細胞……細胞活性化……免疫細胞強化……脳細胞……末梢神経系操作……反射速度強化……関節補助……眼球……聴覚系……嗅覚系……内蔵機関…………現在強化が可能な分は、こんなものか」
その光景をもしも事情の知らないミランダなんかが見ていたら、恐らくは自身の眼球と脳の正常を疑うところだろう。その少年が起き上がってブツブツと何かを呟いていると、唐突に血色がよくなり、荒れた皮膚が正常になり、枝のように細かった手足に健常な筋肉が宿ったのだから。
ぼさぼさの髪を除き、概ね健常な肉体に変化した身体を動かして問題がないかを確かめる。
と、早速一つ問題が生じた。体内に保管されたエネルギーに不安がある。本来のクレデンダは体内に脂肪をベースとした栄養素を補完する補助臓器が小腸の一部に設けられているが、この身体は遺伝子改造の形跡がないため存在しない。新たに補助臓器を精製しようにも、OTの補助なしには難しい。あれがあれば3日分は行動が可能だったのだが、現状のエネルギーでは切りつめても1日程度しか動けない。栄養分を補給する必要がある。
「栄養分が足りない……栄養素になる食物は――これか?」
目につくのは、この薬物投与機に入った液体入りの透明な袋。
血管に刺さっていた針を調べてみると、中に入っているのはどうやらブドウ糖の溶液らしい。このような分析も高次元干渉の賜物だ。これで多少はマシになるだろうと考え、回転式のふたのようなものを取り外し中身を頂く。そのまま吸収しては急激に血糖値が上昇するため、事象干渉で液体が少しずつ体に吸収されるよう設定した。
ブドウ糖水溶液の入っていた透明な容器を成分分析してみると、信じられないことに地球では当の昔に枯渇した炭化水素(石油とも呼ばれていた)によって生成されているらしい。あの天然素材といいこの炭化水素加工品といい、『跳んだ先の世界』は文明レベルが低い代わりに天然資源に余裕があるように見受けられる。
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