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【短編集】現実だってファンタジー
既死廻生のクレデンダ 前編
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ダの知っている何色に似ている?」
『当該情報には画像データが伴わないために不明だが、古代では空とは美しい物として扱われていたそうだ』
「ウツクシイ、とは……?」
『生物的な論理的説明を伴わない感情であり、価値観のことである。類似した感覚に感動というものがあり、理由は不明であるにもかかわらず感覚神経や細胞が活性化することもあるらしい』

 喪われた色。喪われた文化。
 先人たちがウツクシイと呼称した空とは、どんなものだったのだろう。
 死の間際になって、『彼』は人間らしい知的好奇心を抱いた。

「………見たいな、それ」
『当機も機械知性体として、このデータに興味を示す』

 何故クレデンダはデータを残しておいてくれなかったのか、小さな苛立ちすら覚える。
 無感動だった胸が、不自然なまでに高まる。経験したことのない感覚に戸惑う。

「1000号、俺の心臓がおかしい。勝手に心拍数が上がっている」
『それは興奮状態にあるためだ。見たことのない水色への好奇心に意識が強く傾き、細胞が静止状態から活動状態へ推移したためだ』
「興奮………つまり俺は、興奮するほどに水色が――いや、空が見たいのか。戦争も生存も興味がなかった俺が、喪ったものは見たいか……しかし、見れないのだな」

 どんなに願った所で、空に広がる分厚い灰色の壁は消えてくれない。世紀単位で蓄積された有害物質と粉塵たちが結託して、空が晴れる事はない。

『或いは飛行制限がなくなった今、OTの飛行機能を使えば僅かに見えた可能性はある。或いはMAPWが高高度で爆発すれば、その瞬間だけ確認できる。それも今となっては叶わない』
「……1000号、胸に強い不快感を感じる。これは何だ?」
『それはストレスによる苛立ちだ。願望が実現できない事に強いストレスを感じ、それを外部に放出しようとしているのだ』
「苛立ち。苛立ち、怒り?同胞を殺されても、どんな命令を受けてもそのような事を俺は感じなかった。空が見えないから俺は苛立っているのか?」
『そう推測される』

 網膜投射ホロモニタが生命活動維持装置の限界時間が近い事を伝える。
 何か空を見る方法を見つけたいのに、時間がないし動けない。生命維持装置の機能が停止する瞬間、無駄な苦しみが無いように脳内に致死量の麻酔薬が注入される仕組みになっている。このまま空を見ずに終わってしまうのか、と考えると『彼』の額に汗が流れた。

『先に行っておくが、現在感じている感情は焦りだ。精神的に余裕がないことが体に現れてる』
「つまり、俺はものすごく空が見たいんだな」
『当機も機械知性体として、そのデータに興味を示す』
「それはさっきも聞いた」
『ジョークである』

 下らない話をしている間に活動限界があと1分を切ってしまった。
 
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