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【短編集】現実だってファンタジー
既死廻生のクレデンダ 前編
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ランダの心理的分析のために一部のクレデンダに感情を与える実験が執り行われていた。『彼』もまた、その実験によって疑似的に感情を得た男である。

 そして、感情が退屈を覚えた際の為に、『彼』を含む疑似感情型固体には、脳内に非ノイマン型自己学習推論量子人工知能が埋め込まれている。ナノマシン・セルによって構成され、膜電位から動力を得て持続する機械知性体である。

「1000号、コミュニケーティングしたい。応答願う」
『こちら1000号。一体何を話したい?』

 名前という文明を失ったクレデンダには、数字が全てだ。いつかこのAIとの会話を聞いていた死にかけのミランダが、「機械同士が喋っているようだ」と皮肉った、無愛想な人工音声が骨伝導で伝わる。

「そうだな……戦争は、あとどれくらいで終わると思う?」
『予測によると、あと1時間22分54,223秒で両勢力の主力は戦闘能力を失い、互いに勝利条件を満たせなくなったまま終了すると思われる。なお、これは最長の場合であり、更に決着が早まる可能性は98,2%である』
「だろうな」

 既に両勢力のインフラは破壊され、環境維持プラント、食糧生産プラント、新生児育成プラント、兵器類生産プラントなど、両勢力の最重要ポイントは悉くが壊滅的な被害を受けている。もう両勢力はどう転がっても今までの文明体型を維持できない。
 ミランダは生物兵器の攻撃を受けたため、仮に生き残っても爆発的に伝染する死病に呑まれるだろう。クレデンダは、先ほど統合管制マザーコンピュータの破壊によって命令そのものが下されなくなり、殆どのクレデンダは案山子になっている。コントロールを失った操り人形みたいなものだ。

「ミランダの切り札のMAPWはクレデンダを焼き尽くす。クレデンダの最後の攻撃は、唯一生存可能性のあったミランダ宇宙軍の衛星をひとつ残らず爆破するだろう。結果、両陣営に生存圏は存在しなくなる……」

 『彼』は、生まれた時から灰色だった閉塞的な空を無感動に見上げた。

 彼の身体には、肉眼では見えない別位相と同時存在的に展開されたOT(Omnipotently Trooper)によって覆われている。『彼』を基軸に、上位位相の構築法則領域に干渉して物質世界に影響を与え、結果的に彼は無手であるにも拘らず、全身を強固な強化外骨格に覆われているような能力を発揮させる。

 そのOTの生命維持機能も、もう長くは持たないだろう。本来はこの宙域にOTのみがエネルギーとして受信できる位相波動が放たれているが、ミランダの工作によってすべてが遮断されていた。主動力炉はオーバーヒートで破損、修理用のナノマシン・セルは枯渇。援軍は来ないことが統合管理コンピュータ『マザー』によって決定された。

 この区域に生存した味方はいない。生存した敵
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