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「あらあら、いらっしゃいませ。お久しぶり」
喫茶店に寄った帰り道。
いつもならまっすぐ家に帰るところだが、今日は服屋にも寄ってみる事にした。
シルヴィに似合う服もアクセサリーも全部買ってしまったが、もしかしたら新しい服が入ってるかも知れない。
(……いや、めぼしいものは無いようだ)
「何かお探しですか?」
「は、はいぃっ!!?」
ド派手な恰好した不気味な店員が音もなく近づいてきて、耳元に口を近づけて小声で話しかける。
いきなり話しかけられた僕はびっくりして、思わず変な声を上げてしまった。
「あら失礼」
「あ、いや、その。急に話しかけられたものでつい……」
「ごめんなさいね、ビックリさせてしまったみたいで。お嬢さんに似合うものでもお探しですか?」
「まぁ、そんなところです」
「ちょうど良かった。今日新しいお品が入ったばかりですの、お嬢さん、こっちへいらっしゃい」
「は、はい……」
不気味な店員に手を引かれ、シルヴィがちょっと怯えながら試着室に入っていく。
試着室の向こうでしばらくの間ゴソゴソ何かをしている音が聞こえ、やがてカーテンが開いた。
「お待たせしました」
「!?」
「あ、あの……ちょっと、恥ずかしい、です……」
「可愛らしいわぁ。よぉく似合ってるわよ、お嬢さん」
紺色の落ち着いた服を着たシルヴィの頭の上に、三角形の耳がくっついている。
手には肉球のついた大きな手袋。足には……ほとんど靴みたいに巨大な、やはり肉球付きの靴下。
「後ろを向いてごらんなさい」
「はい……」
ふわりと背を向けると、彼女のスカートのお尻のあたりから長い尻尾が生えて、ひょこひょこと揺れていた。
「そ、それは一体……?」
「猫ちゃんセット。仮装用のアクセサリーですわ。どこかの国のお祭り用のものが流れて来ましたの」
子供に猫の格好をさせるなんて、奇妙な国もあったもんだ。
「シルヴィちゃん。ちょっと、にゃーんって言ってみて頂戴な。ほら、にゃーん」
「に、にゃー、ん」
もじもじ恥ずかしがりつつ肉球付き手袋を顔の横に持ってきて、手首を振りながら猫の鳴きまねをするシルヴィ。
いや、これは……、……ある!
「お安くしておきますわよ」
「よろしい、幾らになる?」
……僕の財布はずいぶんと軽くなってしまったが、シルヴィの足取りは財布よりもさらに軽くなっていた。
紙袋に入った猫ちゃんセットを大切そうに抱え、スキップしながら帰り道を急ぐ彼女の後ろを早足で追いかける。
「先生! お家に帰ったらすぐ着けてみますね♪ 猫ちゃんセット!」
「ああ、僕も楽しみだよ」
「にゃんにゃん♪ にゃんにゃん♪」
「にゃにゃーん!」
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