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とある商人の手記:
ある日その町を訪れると、喫茶店、レストラン、街頭の軽食屋……市場の食堂すら……町のすべてから、『サンドイッチ』という食べ物が消えてしまっていた。
店員に理由を問うたが、あいまいな返事が返ってくるばかりでだれも答えようとしない。
食い下がる私に、ある店員がただ一言「悲しい思いをする人がいる」と言った。
――私は急いで顔なじみの町医者の元に向かった。
『本日休診』と書かれた札に嫌な予感を覚え、ドアを叩く。
中からあの先生が出てきて、……その隣に私が知っている頃よりもずいぶん血色よくふくよかになった少女がしがみついていた。
「あ、ああ……よかった、お久しぶりです、先生」
「おひさしぶりです、どうしました?」
「いや、久々に町に立ち寄ったもんですからね、あれが元気にしてるかどうかとふと思って……ああ、元気そうですね、良かったですよ」
少女は私の顔をみるなり、少し怖がる様子を見せて、先生にさらに強くぎゅっとしがみ付く。
「ところで先生、町からサンドイッチが消えてるんですが、なんで……」
先生は少女の頭をそっと撫でながら、少女にも聞かせるように、優しく答えた
「私は別にいいんですが、この子が怯えるんです。それを見て町の人が……。
みんなに迷惑がかるんでそんなことしなくていいって言っても、それじゃかわいそうだ、ってみんなが言うんです」
「はぁ」
「だからね、この子がサンドイッチを食べられるよう、好きな具を調べたり、パン生地を工夫してみたり、いろいろやってるんです」
「はぁ…」
「ね、シルヴィ、サンドイッチは怖くないよ?」
「……」
少女は黙って先生の足にしがみついていたが、頭を優しく撫でられるうちに、怯えが少しずつ溶け、穏やかな表情になっていった。
「もしどこかの町で飛び切りおいしそうなサンドイッチを見つけたら、ぜひ教えてください。この子の為にも、町の人たちの為にも」
私は面倒な注文を受けたもんだとぼやきながら、2人から自然と発せられる幸せな雰囲気を浴びて、心が癒された思いがしながら、町に戻って行った。
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