ドゥーチェ・アンチョビと西住みほ
[5/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
「ごめんな。目が悪いからここまで近づかないと、みほの顔がよく見えないんだ」
「ううん、大丈夫です。お話、続けて下さい」
「戦車道に限らなくとも、事故、病気――いつ何が起きるか分からない。いつか『死』が来るからこそ今日を大事にし、一生懸命生きて、飲もう、食べよう、踊ろう――夜にはああ楽しかったと寝床について、次の朝を迎えたい。そしてまた明日も一生懸命生きて楽しもう、もし明後日に死んでも悔いの残らぬように――それの繰り返しだよ。楽しむために、みんな笑って朝を迎えるために、一生懸命生きるんだ」
みほの茶色い瞳が大きく見開かれ、カーテンの隙間に射し込んだ月明かりに照らされた。
「アンチョビ……さん」
「あの子たちに言っても分かってもらえないんだけど――みほなら少しは分かると思ってさ……ごめん。私ちょっとブドウジュース飲み過ぎたたかなぁ、なんだか説教臭い」
「いいですよ、もっとお話を聞かせて下さい」
「お前には足りないものは何もない。相手を冷静に分析し、自らの置かれた立場を理解し、仲間たちの力を信じ、みんなが納得できる命令を出し、臨機応変に作戦を変えることが出来れば――黒森峰だろうがプラウダだろうが負けない、いや勝つ」
「え、それはちょっと無理かも――」
もう一度アンチョビが手足を絡め、とくっ、とくっと互いの心音が聞こえるまでの距離で身体を密着させる。
「……」
「まだ『あの時』を引きずっているな。……もういい――お前は何も間違ってなかった。行進を続けていればプラウダに勝てたかもしれないが――お前は『死』を思わない冷徹な機械になっただろう。それは西住流としては正しい行いだ。だが……人の心を失ってまで守るべき『道』じゃないって思うんだ。私は」
「……わたし……」
小さく震えだしたみほを、さらにきつく抱きしめ、肩を抱きながら頭を静かに撫でる。
「わたし、今でもあれで良かったか分からないんです。私があそこで戦車から飛び出してなかったら……お姉ちゃんも、エリカさんも、みんなも……」
うっ、ううっ、と、みほが小さな嗚咽を漏らす。
頭を撫でながら、アンチョビが額をくっつけた。
2人の顔の距離は――恋人同士。鼻先もくっつき、ほんの少し唇を、舌を伸ばせば――触れられる距離。
「でも、今のお前は大洗で皆から頼られる隊長。あのころよりもずっとずっと素敵な笑顔と、真剣な眼差しをしている」
みほはしばらくの間、嗚咽を堪え、震え続ける。
その間、アンチョビは怯えた子を落ち着かせるように、ゆっくりと優しくみほの髪を、背中を、頬を撫で続けた。
「お前は間違ってない、間違ってないんだ」
「…………」
みほの震えが止まった。
「こんな事言えた立場じゃないかも知れなけど――最後に一言だけ、気になることを言おう」
「はい」
「まだ、
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ