ドゥーチェ・アンチョビと西住みほ
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寝かされていることに気付く。
ベッドの隅で眼鏡を外し髪の毛をほどいたアンチョビが、頬杖をついて、みほの横顔を真剣な面持ちで見つめ続けていた。
鋭く熱い視線に気づいたみほが首を横に向け、あ、と小さな声を上げる。
「初めてだったから……ちょっときつかったかなぁ。悪かった」
「あ、はい、大丈夫です……でも、なんでわたしにそんな高いワイ――」
「ブドウジュース。心底気に入った子と『いちばんいい奴』で杯を交わす。これが私の2番目の楽しみ」
「はあ」
「そしてとっておきは――これだっ!」
いつの間にかパジャマに着替えていたアンチョビが立ち上がり、ベッドに潜り込んできた。
「え? え? ええっ?」
「あ! あのっ! 恥ずかしい……ですっ!」
「心配するな、別に恥ずかしいことはしない。ただ添い寝をするだけだ」
「お、女の子同士で1つのベッドに寝るのっておかしくないですか? わたしは床で寝ますからアンチョビさんがベッドに――」
「いーや、私は今晩みほと一緒に寝たい。……言っとくがいやらしい意味ではないからな、安心しろ?」
そういうなり、細い手足をみほの手足に絡み付かせ、ぎゅーっと抱きつく。
「!!!!!!」
「うん、いい身体をしてる。さすがは黒森峰の副隊――もとい、2回戦を勝ち上がった大洗の隊長」
顔を真っ赤にしてあわあわ慌てるみほを無視し、彼女のオーバーヒート気味の真っ赤っかな頬に、アンチョビが自分の頬をすり合わせた。
「みほ」
灯りを消して暗くなった部屋の中。カーテンの隙間から月明かりが射し込み、アンチョビの大きな瞳が微かに輝く。
「はい」
いきなり抱きつかれた時のショックと興奮が落ち着き、今は素直に話が出来る状態にはなったが……両手をしっかりと握られ、足の先もぴったりとくっついたまま。
みほより少しだけ高いアンチョビの体温。触れた手足の先が暖かくてじんじんしてくる。
目線をしっかりと見据えたまま、アンチョビが小さく優しい声でささやいた。
「お前は優秀な隊長だ。戦車の性能も特性も、隊員の性格や長所短所も知りつくし、バラバラだった急増部隊を短期間で練り上げてあのサンダースと我がアンツィオを倒すまでに育てた」
みほは黙っている――ここまでの試合は、もしかしたら『まぐれ』だったのかも知れない。
次は強豪……おそらく、プラウダが相手となるだろう。
プラウダ戦。
心の傷はまだ癒えてはいない。脳裏に――去年の悪夢がよみがえる。
思わずアンチョビの手を強く握り締め、視線を彷徨わせると……オリーブ色の髪の少女がみほにぐっと近づいてきた。
「アンチョビ、さん?」
「ところで、さっきのブドウジュースどうだった? どっちがおいしかったか覚えてるか」
「えっと……その、どっちも、美味しかったです」
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