ノンナとアンチョビ
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すノンナの手を握り、氷の溶けかけた瞳を見据える。
その頬すら、暖房の熱さが原因ではない赤みを帯びていた。
「…………」
「ノンナ、別にわたしはお前が嫌いではない、いや寧ろ……わたしも興味が有る。中学時代のわたししか知らないお前に……3年の月日を経たいまのありのままを見せようじゃないか」
おそらく、わたしを含め誰もが初めて見る、ノンナのぼうっとした表情。
彼女の大きく白い手を取り、私は手の甲に口づけをした。
「!!……安斎」
「No(ノ)]。その名で呼ぶな。今のわたしは安斎千代美ではない。アンチョビだ」
頬を擦り合わせるには彼女の背は高すぎる。キスした手を握り締めて頬を擦り寄せ、また瞳を見つめる。
「……」
青い瞳が潤み、頬に朱色が差し、唇がわずかに開いていた。
「アンチョビ……」
うわついたノンナの瞳が、一瞬ちらりと部屋の奥を見、わずかに悲そうな顔をした……カチューシャに対する罪悪感。
ここでは……これ以上は無理だろう。わたしは静かに立ち上がり、ノンナの手を握る。
「ぜひ今度、アンツィオに来てくれないか」
ノンナは一度視線をそらし、また私の顔を見つめ直してから、小さく頷いた。
「……ああ、遅くなってすまなかった。アンツィオ手製のお菓子、手土産だ。みんなで食べてくれ……。あと、こちらに来るときはぜひ連絡を。精いっぱいのおもてなしをしよう」
「アンチョビ。私、個人的な好意とは別に、一度あなたと本気で戦ってみたい、アンツィオの本気を見たいの」
「アンツィオは……強くないぞ?」
「サヴォイア騎兵連隊、ニコラエフカのアルピーニ、アリエテ戦車師団……風説とは逆の勇猛果敢な部隊……けして弱いわけではないでしょう」
「あんな苛烈なロールプレイをあの子たちにさせるわけにはいかない、親から預かったみんなに怪我をさせるわけには……」
「では私とあなた、1対1で試合をするというのは?」
戦車道に則らない、野良試合(タンカスロン)、か。
「……考えておく、まずはアンツィオに来てくれ」
「ええ……今日は我がプラウダに訪問頂き、ありがとうございました」
つとめて冷静に振る舞おうとするノンナと最後のアイコンタクトを取り、ウインクを返す。
「Grazie (グラツィエ)」
「Не(ニェ) стоит(ストーイト). Большое(バリショーエ) Спасибо(スパシーバ).」
帰途につくプラウダ手配のヘリコプターの機内で、わたしは身体を軽く震わせる。
頭が、ぼうっとしていた。
興味が有る? わたしはノンナに残酷な嘘をついた。
わたしも……最初から明るいアンツィオっ子にはない、超然とした、ノンナのあのぞくっとする冷たい笑顔の奥に垣間見えた優しい光と戸惑いを……愛しているのだ。
彼女がカチュ
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