ノンナとアンチョビ
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あなたの高校が廃校になる……そんな追い詰められた状況であれば、どうします?」
ノンナの目は笑っていなかった。暖かい部屋のなか、わたしの額に汗が滴る。
そんなありえない状況を、回答しなければいけないのか……?
「火力、戦車の数、練度。全てがプラウダに劣るわたしたちに何が出来ると」
「それを考えるのが隊長の役目ではないのですか?」
「……っっ!」
ざりっ、歯を噛みしめる音が頭に響く。
答えねばならないのか? 練習試合、親善試合、エキシビション、冬の国体……いつ敵になるか分からない相手にこちらの手の内を見せる必要があるのか!?
ここで今、席を立って帰ってもいいんだ!
顔を上げ、ノンナを睨み付けようとして……諦めた。
表情が笑っていた。氷の微笑がわずかに熱を帯びていた。このアンチョビを、試している。
表面上は冷静さを装い、言葉を選びながら、話を続ける。
「取りうる手段は変わらない。細かくは機密とさせてもらうが……プラウダの戦車の装甲を抜けるのは、わが校には3両、いや今は2両しかいない。CV33をもって攪乱の上重包囲を突破し、偵察でフラッグ車を探し当て、セモヴェンテで強襲……いや待ち伏せ、ワンチャンスを狙って、撃つ……それだけしかないだろう」
「ふふっ。あなたらしい戦いですね」
心臓が高鳴る、汗が額から目に垂れる。彼女は……わたしの答えに満足してくれただろうか。
「さすがドゥーチェ・アンチョビ。あなたの回答は、私に考えうる正解の中の1つだと思います」
「こんな戦術論を聞きに、ノンナはわたしをここまで招待したのか?」
「半分はДа(ダー)、もう半分はНет(ニエット)、ですね」
ノンナは静かに立ち上がり……奥の部屋で眠るカチューシャの様子を気にしながら、私の傍らに近づく。
「残りの半分は……あなたへの個人的な興味。3年間で廃止寸前のアンツィオの戦車道を建て直し、2回戦までこぎつけたその実力と、隊員を心酔させて止まぬそのカリスマ、人心掌握術」
「ノンナ」
その瞳が……冷たく青い瞳が……わずかに潤むのを見逃さなかった
……手練手管に長けたアンツィオ娘を見くびるな。
賭けに出た。ありえない(矢)を放つ。わたしとノンナの関係では本来……絶対ありえない言葉の矢を。
「お前の言いたいことはこうだ。わたしが……好きだと」
「あ……? え……」
ブリザードが止んだ。
寒い灰色の雲に光が射す。ノンナが戸惑いの表情を隠せない。
「弱小校の戦術論? わたしの人心掌握術? それだけのためにわざわざここまで呼び、カチューシャが寝付いたのを見計らい、サシで話をする。そこまで追い詰めておいて、個人的に興味があると? 西住でもケイでもダージリンでもないこのわたしに」
おもむろに立ち上がり、傍らに立ち尽く
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