三十三話:傍に居る人
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かしながらどこか安心するような不思議なものを持っている。自分は彼を知っている。何の根拠も無しに思ってしまうような奇妙な感覚だった。これも夢という環境のせいなのかもしれない。そう結論付けたところで男が再び責めるように声をかけてきた。
『君の願うものはこの世界のどこにも存在しない。いや、世界の外にもない。理想論でしかない。そんなものの為に後幾つ屍を築き上げるつもりだ?』
男の言葉は否定のしようがないほどに正しかった。彼女の行いの先にあるのは積み上げた無数の屍だけ。想像するだけで恐ろしくなる。自分の罪深さに吐き出したくなる。だが、しかし。男の言葉にはどこか違和感があった。
あの時は自分を否定し、糾弾しているだけだと思っていた。しかしながら今こうして考え直してみると彼の言葉には言動には優しさがあったのだ。とてつもなく歪んではいるが彼は自分もしくは自分が生きていく中で犠牲にするものを救おうとしたのではないか。何よりも彼は―――
『理想を捨てて人間になれないのなら、せいぜい機械のまま―――理想を抱いて溺死しろ』
正義の味方を諦めさせることで人間になれない自分を救おうとしているのではないか?
「スバル、スバル、起きなさい」
「……ん、ティア? おはよう」
「おはよう。あんたが寝坊なんて珍しいわね。もしかしてどこか具合悪いの?」
目を覚ますとどこかこちらを気遣うようなティアナの顔が目に入った。答える前に時計に目をやると確かに普段よりも遅い時間だった。いつもなら日課であるランニングをしている頃だ。慌てて起きようとしてティアナが今まで起こさなかったことに疑問を覚える。
ティアナは基本的に時間を守るタイプだ。仮に自分を待ってくれていたのだとしてもこの時間まで起こそうとしなかったのには納得がいかない。その疑問に気付いたのか尋ねる前にティアナが説明してくれる。
「今日の午前中の訓練は休みって言ってたわよ。何でもなのはさんはあの子を迎えに聖王教会の方に行くみたいだから。ヴィータ副隊長も昨日の事件で潰れた海上演習の埋め合わせに行くらしいわよ」
「そっか、だから今日はゆっくりしてるんだ」
納得して少し寝癖がついている頭を撫でる。恐らくは自分達の潰れた休暇の分の詫びも含まれているのだろう。そう考えるスバルであったが自分が精神的に辛い状態にあるかも知れないと隊長陣から心配され怪しまれないように休まされていることには気づかない。
「そういうこと、あんたも気分が悪いならもう少し休んどきなさい」
「ありがとうティア、心配してくれて」
「な! べ、別にあたしはあんたに倒れられると負担が増えるから心配なだけよ」
笑顔で礼を言っただけなのに顔を赤くされて否定されてしまう。世間一般から言うとティア
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