角谷杏と河嶋桃と小山柚子
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りで、かろうじて指の動きが見える。
「かーしま、ちょっとこれ、見ててくれるかな」
杏は桃の目の前でひとさし指を左右に振る。彼女は言い付け通り眼球を左右に動かし、指先を追った。
「河嶋桃、お前は高校を卒業して大学に入った。残念ながら角谷杏と小山柚子と同じ大学には行けなかった。
失意の中でも、お前はめげずに頑張って独り暮らしをして一生懸命勉強していたが、なかなか学生生活に馴染めない。
友人も知り合いもいない1人ぼっち、周囲は知らない子ばかり。
どうにか馴染もうと努力して……自身満々に強気に出てみたと思ったら急に弱気になったり、派手な恰好した次の日は地味だったり。周囲は情緒不安定なんじゃないか? ってお前と距離を置く。心折れて部屋で泣いてばかりのお前の部屋に、急に男が訪ねて来た。
『河嶋さん、最近調子悪そうだけど大丈夫?』
最初は下心で近づいてきたと思ったお前は男を邪険に扱うが、少しずつ、少しずつ男が本気で心配している事に気づく。
やがて目の前で泣ける……弱みを見せられる相手となり……恋に落ちた。そこから先は石が転がるように事が進む。。
互いに求め愛し合い、やがて自分の身体の変化に気付く……子供が出来ていたんだ。男は涙を流し、謝った。
……ごめん、まだ早すぎる、子供は諦めよう……。が、お前は頑として断った。
『あなたとの赤ちゃんを殺すなんて出来ない! 産む! 産むから!!』 泣いて泣いて泣きわめくお前に、男は折れた」
指の動きを追っている桃の瞳が、とろんとしてくる……催眠の世界に、入ってきてる。
「続けるぞ、かーしま。お前は無事赤ちゃんを産んだが……学生結婚、当然たくさんの苦悩がやってくる。
親はいい顔しない。世間の目は冷たい。子供の養育費だって学生2人のバイトじゃたかが知れている。
夜昼構わず泣く赤子。学生アパートの隣近所からの苦情。……心折れかけ、子供に手を上げかけたこともあった。
が、お前は泣ける子だ、我慢せずに泣ける子は、強い。……手を上げず、替わりに赤ちゃんを抱き自分も泣いた。わんわん泣いた。
……そんなお前を見て、放っておけないのは男だけじゃなかった、友達が、近所の人が、いろんな手を差し伸べてくれる。
私も柚子も、心配になって訪ねてくる。男……夫も中退せずに済むよう、親に頼み込んで子供を預かってもらったり、私たちが預かったり、食事を作るのを手伝ったり……。
どうにか大学も卒業し、子供を育てながら、働きながら、つつましくも幸せな家庭を築き、どうにかこうにかやってきた。
泣きたいときに泣けるお前は強かったんだよ……時には『ママ、泣かないで』なんて言ってくれる優しい子に育った。
両親に買ってもらったピンクのランドセルを背負って、ママの前でポーズを取ってくれる『ママ、明日は入学式だね』って……。それがこの私、
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