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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第四十二話 皇帝不予
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シュタインホフがいないと言う事は遠征軍の事じゃないだろう。国務尚書がいるのだから政治面だとは思うが何故軍人の俺を呼ぶ?

「陛下が倒れられた」
「!」
フリードリヒ四世が倒れた?どういうことだ?何故今倒れる?俺とシューマッハ中佐は思わず顔を見合わせる。
「今朝、グリューネワルト伯爵夫人の部屋で倒れられ、そのままじゃ」
リヒテンラーデ侯の顔は沈鬱に沈んでいる。シューマッハ中佐が問い続ける。

「御容態はいかがなのです」
「判らぬ。医師の話では心臓が弱っているそうだが、はっきりとした事は…」
言葉の語尾を濁すとは余程悪いのか?
「意識は有るのですか」
「無い」
リヒテンラーデ侯の顔はますます沈んでくる。エーレンベルクも苦い表情だ。

「そのことを知る者は」
「グリューネワルト伯爵夫人と侍女が数名。それに医師。緘口令は敷いてある。表向きには陛下は御気分が優れず本日は伯爵夫人の下で御静養となっておる。まず疑われる事はあるまいが、それとて二日も保てばいいほうだろう」
御気分が優れずか、これまでにも何度かあったろう。それより何故シュタインホフがいない?

「シュタインホフ元帥に知らせなくてよいのですか?」
俺の問いに答えたのはエーレンベルクだった。
「シュタインホフには知らせなくともよい。彼は私とミュッケンベルガーに反感を持っている。このことを知ればどんな動きをするかわからぬ」
「少将、国務尚書の、いや我等の不安がわかるか?一つ間違えば帝国は内乱になりかねぬのだ」

 軍務尚書の言う事は正しい。帝国には今、後継者がいない。皇帝には三人の孫がいる。皇孫エルウィン・ヨーゼフ、ブラウンシュバイク公家のエリザベート、リッテンハイム侯家のサビーネ。しかし、フリードリヒ四世はそのいずれも後継者に選んでいないのだ。当然ブラウンシュバイク公家、リッテンハイム侯家は後継者争いに必死だ。両家の対立は抜き差しならないところまで来ているといっていい。敗者は勝者によって滅ぼされるだろう。その状態でフリードリヒ四世が倒れた、しかも意識がない、つまり後継者を指名できない。帝位は実力によって奪い取った者が得る事になる。

 ミュッケンベルガーが居れば話は別だった。これまで両家の暴発はミュッケンベルガーが防いできたと言っていい。ミュッケンベルガーは実戦兵力を統括し、近年その声望は他を圧し追随を許さない。彼の持つ軍事力と声望はブラウンシュバイク公家、リッテンハイム侯家を自重させるのに十分な力を持っていたのだ。

しかし、そのミュッケンベルガーがいない。頭を抑えるものがなくなった今、皇帝重病を知れば彼らは間違いなく行動を起す。一度たがが外れれば後はとめどなくエスカレートするだろう、行き着くところは武力での殺し合い。そうなれば軍務尚書も国務尚書も命は無い
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