第6章 流されて異界
第138話 反魂封じ
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それでも空気を作り出し続けなければ息が出来なくなる、などと言う状況ではなくなっていた。
何時の間にか……。おそらく、迫り来る炎の触手から解放された瞬間に膝を突いて仕舞った俺。
自らの目の前で柳眉を逆立てて、と言う表現が一番しっくりと来る、燃え盛る炎の如き雰囲気で捲し立てるさつきが存在する。そう、現在の俺は、瞳では視る事の出来ない部分で今のさつきを強く感じている。この感覚はハルケギニアの崇拝される者と同じ。見た目は小学生。しかし、その内側に巨大な炎の精気を感じる。
もっとも、今宵のコイツの俺に対する態度は、どう見ても年長者の異性に対する態度とは思えないのですが……。
「そんなモン、決まっている――」
あの犬神使いを今、この場で封印しなかったら、良門の魄まで失う事となって仕舞う。
ありがとう、助かったよ。そう、前置きした上で、呼吸を整えるようにゆっくりとそう告げる俺。尚、殊更ゆっくりと話した理由は、別にさつきの怒気に鼻白んだ訳などではなく、そうしなければ絶えず襲って来る悪心を押さえる事が出来なかったから。更に、色々な理由から頭を上げる事は出来ず、左手に握り締めたままと成って居たターコイズのみを彼女の前に差し出す。
当然、両腕とも既に動かす事は出来ない。今、腕を持ち上げたのは筋力などではなく、重力を操る生来の能力。
出来る事なら、操り人形のような不自然な動きになっていない事を祈りながら。
そう。生命を保った状態で助け出された物の、未だ視力は回復せず。故に、顔を上げて直接、さつきの顔を確認してから話す事が出来なかった。……そう言う事。但し、五感の内、もっとも情報量の多い視覚を一時的とは言え失った事により、肌から、その他の器官から気を感じる能力は、普段よりもずっと鋭敏と成って居る事が分かる。
そして……。
そして、未だすべてが終わった訳ではない事も当然、分かっている。しかし、想像以上に先ほどの戦いでダメージを受けた事は間違いない。
「ちょっと、何よ、この手は!」
重度の熱傷で最早、手としての役には立たない手を見るなり、更にさつきの怒りが爆発。しかし、そんな事を言われても、手ぐらいの犠牲で済めば御の字。
実際、身体すべてが消し炭に成って居たとしても不思議ではない状況でしたから。
あの猛烈な光が発生していた現象が、対消滅と言われる現象だったのならば。
「大丈夫や。既に血液は手の先までは流れていない。神経もカットしている」
さつきが両腕を斬り落としてくれたなら、その辺りに植えている木から、一時的に手を再生して戦闘を続ける事は出来るから問題ない。
最早、常軌を逸している、としか言い様のない言葉を、淡々と続ける俺。少なくとも真っ当な人間ならば、この言葉は出て来ないでしょう。
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