第6章 流されて異界
第138話 反魂封じ
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な余韻が消え視力が回復した時、その場に存在して居たのは――
「お、俺を殺すのか?」
完全に起動した晴明桔梗が強い光輝を放つ。五芒星の頂点に頭部、両手、両足を拘束され、宙に浮かぶ犬神使いの青年。その姿は昨夜、道路の真ん中で蔦に絡め取られた時と同じ。
しかし、この姿になっても尚、その程度の問いしか出て来ないのか。
これほど死の穢れに塗れた魂を、仙人への道を辿る存在が輪廻に還す訳がない。その程度の事も知らない素人が、あれほどの術を行使していた、……と言う事にかなり苦い物を噛みしめたような気分になる俺。
但し、それを表面に表わす訳には行かない。
「心配するな。殺す訳はない」
穏やかな口調でそう諭すように告げる俺。それに、俺は昨夜から一度もコイツの事を殺すなどとは言った覚えがない。
まして、ウカツに殺せる訳がない。
この事件の裏には這い寄る混沌が居る。こんな反魂封じの呪が籠められている地では、生半可な方法で冥府からの召喚が成功しない事は、アイツならば最初から分かって居たはず。
それはつまり、這い寄る混沌の側からみると初めから決まりきった結果しか訪れる事のない、面白くない展開の物語だ、……と言う事になる。
この状況から推測すると、もう一山、何かが準備されている可能性がある、と言う事。
例えばこの犬神使いが絶望した瞬間。その千年を超える呪いに満ちた感情が発生させる暗い情念を糧にして、この地に施されている反魂封じを破る。
その可能性は十分にあると思う。
そう考えた正にその瞬間。
長く尾を引く……まるで狼のような遠吠えが響いた。
いや、それはひとつではない。遠くから、近くから。物悲しい、哀愁に満ちた叫び――
一瞬、かなり強い瞳で、囚われの身となった犬神使いを見つめる俺。
その強い視線に、ひっ、と言う息を呑み込むような短い悲鳴と、自分は何もしていないと主張するかのように、固定され、動かし難くなった首を必死になって左右に強く振る犬神使い。その動きや、今現在のコイツが発して居る雰囲気から考えるのなら、これは真実。どう考えても嘘を吐いているとは考えられない。
それに……。
確かに、この状況でコイツに何かが出来るとも思えない。何故ならば、今回は日本の神道式の術を多用する予定で禊を行い、今、ヤツ自身を拘束している術式も急場で組み上げた物などではなく、最初から準備してあった物。
この五芒星に封じられた状態で術など行使出来る訳……少なくとも、術に関しては初心者のこの犬神使いに出来るとは思えない。
そう結論付ける俺。その間も続く――
怨みに、恨みに染まった犬たちの遠吠え。怨、恨、穏。
ひとつひとつは取るに足りない小さな呪い。しかし、その僅かな呪力の籠った叫
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