第6章 流されて異界
第138話 反魂封じ
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、ヤツの野望は潰えて仕舞った。
タラク! 夜の静寂に俺の声が響き、刀印が悪意を斬る。
「当然、黄泉坂の人間はこう考える。この地名や名字のままでは、何時までも俺たちの家はオマエのような狂人に狙われ続ける事となる、と言う風にな」
そこで自らの名前を変え、地名を変えた。不都合のない名前。妙な呪いのない一般的な名前。読みは同じ。しかし、その意味はまったく違う名字や地名……高坂に。
そう、高坂。この文字を分解すると、高、土、反の文字に分ける事が出来る。
……それはつまり、
「いと高きモノ土に返る。反魂を防ぐ呪が籠められた名前。そう言う事だ」
反魂封じの地名を持つ街で、それも最後の生け贄に選んだのがその高坂の名字を持つ家。こんな素人臭い術が成功する訳がない。
キリク! 一歩進む毎に。一画を斬り裂く毎に高まって行く霊圧。臨界に近い勢いで生成される龍気が武神忍と言う器では納められず、漏れ出す龍気に活性化した小さき精霊たちが、流星の如き輝く尾を引きながら俺を中心とした半径三メートルの球を舞う。
おそらく一般人に過ぎない、この犬神使いにも今の精霊の輝きは見えているはず。それぐらい強い輝きを今は示しているはず。
もし、この大規模召喚術を別の街で行ったのなら、この企ては成功した可能性は非常に高かったと思われる。当然、その事件に俺が巻き込まれて居たのなら、その時はこんな余裕を持った戦いを行う事は出来なかったでしょう。
但し、現実にはそうは成らなかった。
既に四画まで打ち込んだ呪。残りは二手。ただ、その術が完全に起動する前に、神籬……アラハバキの聖域を乱す必要がある。
「平安の世より千年以上。それだけの長い間、人々の口からこの地名が、名字が呼ばれる度に、反魂封じの呪が刻まれる。それだけ多くの人々の思いを、術の修業もせず、ただ邪神に能力を貰っただけの貴様に覆せる訳がない」
アク! 最後の一画が刀印に因って空に刻まれた瞬間、俺の目の前に光の線で描き出された五芒星――晴明桔梗が浮かび上がる。
大きさは俺の身長ぐらい。ちょうど、人間が両手、両足を広げた程度の大きさ。
「俺は――」
犬神使いの青年の声。それまでと違い、かなり抑揚に欠けた声に現在のヤツの感情が簡単に分かろうと言う物。
そして――
「神に選ばれた英雄としての俺の怨みが、そんなちっぽけな人間どもの言葉程度に阻止されったって言うのか!」
貴様は!
冥府の底から響き渡るような魂の絶叫! 吹き上がるどす黒い感情は、これまでの落ち着いた雰囲気が演技であった事が簡単に見て取れる。
そう、それは最早瘴気と言うべきレベルにまで高められた呪い。ヤツ自身が前世を無念の内に終わらせ、その後、千年の長きに渡って封じ続けられて来た
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