番外編 〜喫茶店のマスター〜
前編
[4/7]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
ったんだけど、その日はちょっと違った。その日、マスターは僕にお釣りを渡しながら、妙に顔を覗き込んできた。いつものジト目で。
「んんー?」
「……ど、どうかしたんですか?」
「……」
不意にマスターが、僕の髪に手を伸ばす。突然のことで僕は何も反応出来ず、ただただされるがままに、マスターに髪の毛先を触られることしか出来なかった。
僕の前髪の毛先を少しいじった後、今度は僕の頭のてっぺんに手を当て、髪を乱暴にくしゃくしゃっと乱してきた。マスターのこの行動は失礼極まりないんだけど、不思議とくしゃくしゃされてるのが心地いい。
「な、なんなんですかっ」
「髪伸びた?」
「へ?」
「ほら。初めて来た時はもうちょっと短かったような……」
確かに初めてきた時から数ヶ月経つけど、僕はその間まだ一回も髪を切ってなかった。マスターは僕が初めて来た時のこと、覚えててくれたのかな。
「あ、は、はい。初めてきたときからまだ一回も髪切ってないです」
「やっぱり。そろそろさっぱりしてもいい頃かもね〜」
「そ、そうですか?」
「うん。まぁどっちでもいいけどねー」
「はぁ……」
「ちょうど隣が床屋だし、よかったら切っちゃってもいいんじゃない?」
なんだか珍しくマスターが僕にちょっかいをかけてきているような……いや、別に気にならないから散髪はまだいいかなーなんて思ってるんですけど。
「そかなー。私はさっぱりしてる方が好きだけどねー」
そう言われて、不思議と『んじゃ切るか』と決心してしまった当時の僕は単純でしょうか……。
後日、僕はミア&リリーに入る前に、その隣の床屋の入り口の前に立った。『バーバーちょもらんま鎮守府だクマ』てのもなんだか妙な名前だ。考えてみればこの店、数年前からここに店を構えてることを思い出した。妙な名前だったからまったく行く気になれなくて、ずっと気にしてなかったんだけど。
ガラス越しに店内の様子を探る。お店の中には、いつかマスターと楽しそうに話をしていたあの背の高いカッコイイ男性がいて、静かに掃除をしているようだった。そっか。あの人床屋さんだったのか。マスターの恋人とか家族とか、そんな感じの人なのかな?
今なら他にお客さんもいないし、待たされないで散髪出来そう。意を決して入り口を開くと、カランカランという音が店内に響き、床屋さんが静かにこっちを見て微笑んでくれた。
「はい、いらっしゃいませ」
「はい、あ、あの、髪を切りに来ましたっ」
「かしこまりました。それじゃこちらへ」
床屋さんは実に柔らかく優しく対応してくれ、僕を散髪代のシートに座らせると、自分はキャスター付きの椅子に座って僕の髪を観察し始めた。
「結構伸びてますね。どういう髪型にするか決めました
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ