番外編 〜喫茶店のマスター〜
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季節は冬。いつもとは少しだけ違う緊張感を胸に秘め、僕は今、ある喫茶店の前に立っている。持ち物はいつもと同じだが、今日の僕は、ある決心を胸に秘めて、この場所に来た。
この喫茶店『ミア&リリー』に僕が気付いてから、もう一年ほど経つ。初めて来たのは、当時好きだった女の子にヒドい振られ方をし、家に帰る気にもなれなくて外を彷徨っていた時だった。その日僕は、本当に何も考えず『ちょっと入ろ……』ぐらいの気持ちでそのお店のドアを開いた。
店内はとなり町にあるおじいさんが営んでいる古い喫茶店のようにノスタルジーとアンティーク溢れた内装で、こじんまりとしていてとても落ち着いた感じたった。ドアを開いて店内に入った瞬間……
「いらっしゃーい」
マスターと思しき女性の、やる気ない歓迎の挨拶が聞こえた。見ると一人の女性がカウンター席に座っていた。その傍らには山のように積まれたマンガ本。20冊ぐらいはあったかな……
店内の、外からあまり見えない席に座る。なんとなく、戦前の日本のハイカラさのようなものを感じられる内装の雰囲気に心地よさを感じながらメニューを見ていると、さっきの女性がお水を持ってきた。……今となっては慣れたことだけど、その店員さんは営業スマイルなんてどこ吹く風で、ちょっとジト目だった。
「注文決まったら呼んでねー」
「あ……注文、いいですか?」
「決まった?」
「はい。えと……コーヒーを」
「りょうかーい」
随分と気の抜けた接客をしてくるおさげの店員さんは、僕の注文を受けて調理場に引っ込んでいった。最近では珍しい、あの接客する気ゼロのやる気ない接客態度に少々の驚きと心地よさを感じたことを、僕は今でもよく覚えている。
席から少し離れた窓から外を見た。冬の為なのか……それとも他に理由があるためか……外の景色はなんだか灰色のように見えた。道行く人々の中には色鮮やかなファッションで身を包んでる人もいるのに、それすらも色あせて見える。その日の僕の世界は、確実に色を失っていた。
「ほい。おまたせー」
店員さんがコーヒーを持ってきてくれた……と思ってカップの中をよく見たら、コーヒーじゃなくてなんだかカフェオレのように見える。あれ?
「あのー……」
「んー?」
「すみません……頼んだのコーヒーなんですけど……」
「あー、いいのいいのどうせ暇だし。それとも甘いのって苦手?」
「いえ、好きですけど……でも……」
「だったら飲んじゃって。お姉さんのおごりだから」
「はぁ……」
勝手なことを言うだけ言って、その店員さんはピラピラと手を振りながらカウンターに戻り、またマンガに没頭し始めた。なんだか不思議な人だなぁ……
店員さんが持ってきたカフェオレのカップを、両手で包み込むように大切に持つ
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