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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第四十話 恒星
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同盟の料理を酒を懐かしみ話が弾んだ。私はリューネブルク少将に昼間のことを話してみた。
「なるほど。ま、余り気にするな」
ヴァレンシュタイン少将と同じ事を言う。
「犬というのはな、主人が一番なのだ。そして主人を脅かしそうな人間を見つけると警戒する。実際に脅かす事は無いとわかっていてもだ。優秀な犬ほどそうだ」
酷いたとえだ。でもわかるような気がする。
「キルヒアイス少佐は犬ですか」
「ただの犬じゃない、優秀な犬だ」
「リューネブルク少将はミューゼル中将とヴァレンシュタイン少将をどう思いますか?」
「そうだな。ヴァレンシュタイン少将によるとミューゼル中将は天才だそうだ。俺から見ても才能、野心、覇気いずれも傑出している事は確かだな。ヴァレンシュタイン少将には才能はともかく、野心、覇気は余り感じられん」
「そうですね」
「しかし、底のしれなさ、奥行きの深さではヴァレンシュタイン少将の方が上ではないかと俺は思っている」
「…少将もそう思いますか」
「大尉も同じ思いか」
「はい」
私と少将だけではないだろう。ヴァレンシュタイン少将の“底の知れなさ”、“奥行きの深さ”を感じている人間は。だれが捕虜を副官にするだろう、そしてその副官を同盟に帰そうとするだろう。あの時少将は私の幸せだけを考えてくれていた。有り得ない話だ。その有り得ない話が起きた時、私は少将の優しさに捕らわれ帝国人として生きる事を選択した。
蒼白な顔をして、私を帰すために使者になった少年をどうして見捨てられるだろう。リューネブルク少将も同じだ。同盟に絶望し帝国にも絶望した彼は自分より十歳以上年下の少年に希望を見た。いずれ彼はヴァレンシュタイン少将の元へ行くだろう。自らの意思によってだ。
恒星。ヴァレンシュタイン少将は多くの惑星を持ち、その中心にいる恒星なのだ。まだ恒星は小さい。しかし、これから大きくなればなるほど惑星の数は増えていくだろう。そして少将は自分が恒星だということがわかっていない。その事が周囲の警戒を呼んでいるということに…。
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