暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 5
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女衆に怖じ気づいた。よりは説得力ありそうだけど、海賊が軍に怯えて引っ込む? ……無いわね。うん、無い。血と肉が大好きですって全身で主張してたし、男相手なら大喜びで滅多斬りにしそう。んで、アイツらがどんな色狂いの殺人狂だろうと、今はどうでもいいのよ!)
 村の門と海を見比べ、どちらに足先を向けるべきか、頭の中でこれまで集めた情報を走らせつつ検討する。
 村を出て山を調べ、本日即決行?
 村長の家で後日に備え、軍人達の情報収集?
 それとも……
 「…………はあぁー……」
 ハウィスの無事とシャムロックの正体が海賊に握られてる今、どっちに歩いても「逃げる」という未来には繋がらない。
 なら、『依頼』の遂行に難が少ない道を選ぼう。
 海賊の『依頼』は「教会の女神像に隠した指輪を回収し、五日後の深夜に引き渡す事」。
 では、地元民や軍人の誰にもシャムロックの正体がバレない、目的達成に最も近い次の行動は何だ?
 「……億劫すぎる。」
 暫く木に背中を預けていたミートリッテは、一つの結論を出して視界を開き、顔を上げた。
 きっとこれが最善策。そして、自分自身が最も辛くなる選択。
 問題は、一日も経たずに心が折れるか砕けるかしちゃう可能性を秘めている点か。
 「こんなの思い付くって、観光兼勉強で得た知識のおかげなのかな。はは……嬉しくない。」
 浮かぶ思いは自嘲なのか諦めなのか。
 少女は背筋をピンと伸ばし、乾いた口元を歪ませた。



 「……お? どうした、ミートリッテ。休日でもないのに、お前がこんな時間に此処に来るなんて珍しいな」
 村の門の外側で一人待機していた自警団員の片割れが、近くの木の傍で海を眺めるミートリッテに気付いて声を掛けた。
 「ボケーっとしてなに……うぉっ!? 死体が立ってる!?」
 「失礼ね、ヴェルディッヒ」
 首を傾げて歩み寄った自警団員は、ひょいと覗いた彼女の顔色に驚いて半歩飛び退いた。
 「いやいやいや! おかしいから! 小麦粉顔にぶちまけたみたいな色してんぞお前! どっか悪いんじゃないのか!?」
 「は? 体調が悪かったら大人しく寝てるわよ。自己管理は怠ってないわ、私。ただ、すっごく怖いだけよ」
 「怖い……? 何が?」
 ヴェルディッヒが不思議そうに瞬くのを目の端に捉えながらも無表情を貫くミートリッテは、ただひたすら海を眺めるばかりで、彼の問いに答えようとはしなかった。


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