桃の香に龍は誘われど
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誰かから目を逸らして……目の前の人々を救うことに尽力すればいい。
けれども思う。
内部の地盤を安定させる為に外を切り捨てる選択は白蓮の時も行った。その時とは違い、今現在は何か一つでも出来ることがあるのだ、と。ただ見ているだけでは、やはり世界は変わらないと、思考を回し、利害を計算した上でそう思った。
「でもっ……少しの救援を出すことも……ダメ、かな?」
「お前さぁ、二十万の兵力相手に救援を出すってことの本当の意味分かってんのか?」
「……」
「分かってない、全然分かってないね。西涼侵攻が終わった後でこっちまで飛び火して来たらどうすんだよ。予想なら次の侵攻は孫呉、だが予定変更してこっちを先にするかもしれねぇんだぞ?
お前らが下手に手を出したせいで準備期間の整わないまま戦う事になるってわけだ。孫呉との戦いに残してる予備兵力をそのまま投入されればこっちには抗う術が無ぇ。しかも、しかもだ……」
片目だけ細めた劉璋は口の端だけ吊り上げる。
桃香が最も恐れていることが何か、彼には分かっていた。
「お前はよ……お前が大切にしてるっていう仲間って奴が死ぬ可能性を看過出来るのかよ?」
「っ……」
救援に向かわせた先で誰かが死ぬかもしれない。乱世では当たり前の出来事である。
桃香は身内の喪失を酷く恐れているきらいがあった。確かに誰かれであっても分け隔てない人間性を有しているが、身近な人間に対してはその線がより強固なモノになる。
原因は始まりの想いであり、彼女の掲げる理想。
近くから世界を広げて行った彼女は、手の届く範囲の、心を許してきた者達の喪失を何よりも恐れるのだ。
今回の敵は甘くない。救援に向かえば誰かが死ぬかもしれない。否……表立って動かせば間違いなく殺される。
益州まで来ている彼が、嘗ての仲間だからと誰も殺さないなど有り得るはずがない。
秋斗を知っているからこそ、桃香は震えた。
容易に想像できるのは……救援に向かわせようと思っていた劉備軍で一番の将、愛紗との衝突。若しくは、自分から志願して来た星と白蓮が……再び紅の揚羽蝶が舞飛ぶ地獄に連れ込まれること。
看過出来るのか、と劉璋は聞いた。
もちろんのこと出来るはずがない。しかしそんなことにはならないと、信じていると言うことも出来ない。
圧倒的な兵力差に無駄な救援を行うことこそ愚策。本来なら対岸の火事と放置するのが安定の一手。
そしてそのまま益州に攻め込んで来たら……どうなるか。
複雑な益州の内部状態に加えて外部からの侵攻があれば、もうどうしようもない。
桃香の理想は潰える。人々はたくさん死ぬ。仲間も、反逆者として殺される。
「よく考えろ。救援に向かうってのはそんな簡単に決めていいことじゃない。お前のわがま
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