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渦巻く滄海 紅き空 【上】
百一 鬼の国
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の命の危機だというのに。









鬼の国の盆地の中央。

結界をなんとか抉じ開け、向かった先にある館を眼にし、四人の青年はにんまりと唇に弧を描いた。
幽霊軍団では結界を抜ける事すら出来なかったが、自分達はこうして森の外れまで来る事が可能なのだ。軍団以上の力を己は持っているのだ、と彼らは自らを自画自賛する。

朝靄の中、獰猛な野獣の如き笑みを口許に湛え、リーダーたるクスナはうっそりと眼を細めた。
視線の先、盆地の中央の館を取り巻く篝火の多さに、クスナの隣でひゅうっと口笛が吹かれる。
「あんな物々しい警備してりゃ、巫女が何処にいるかすぐバレるって」

口笛を吹いた小柄な少年――シズクが苦笑雑じりに呟く。シズクに同意し、他の二人―ギタイとセツナが頷くのを眼の端に捉えてから、クスナは改めて眼下の館を見下ろした。

高さ数メートルの高い壁に囲まれた館。周囲で幾人もの兵士達が見張りに立っている。
あの館の中に、殺すべき対象がいるのは間違いない。
「よし、抜かるな」

クスナの号令で、すぐさま館目掛けて飛び出す四人衆。
黄泉配下の四人は己の力を過信するあまり、巫女を殺すという目的をすぐにでも達する事が出来るだろうと、そう信じて疑わなかった。









館の周りを取り囲むい壁も物々しい警備も、四人衆の前では無意味に等しかった。

数人の兵士達が弓を構えるが、矢は飛ぶ事なく地に墜ちる。
矢を放つ寸前、四人による手裏剣の雨が兵士達を襲い、彼らは何れも矢と同じく地に伏せてしまう。
しかしながら忍びとの力量差にも怯まず、兵士達は侵入者を館へ近づけまいと刀を前に掲げた。
それを失笑に付せ、四人は群がる兵士達を瞬く間に打ち倒す。

仲間の叫び交わす声を背後に、警備の青年の一人が一目散に主人の許へ駆けていた。
眼鏡を掛けた青年――足穂(たるほ)は賊の出現により、真っ先に巫女の身を案じ、彼女の寝所がある母屋へ向かっていた。

「敵の狙いは紫苑様だ!!御寝所の守りを固めよ!」

仲間の兵士を引き連れて寝所へと続く廊下を駆ける。母屋の前を守り固める弓隊に合図を送り、足穂が寝所へ飛び込んだ直後、後ろでバキバキ、と何かが打ち壊される音が響き渡った。
その音を気にする暇も無く、足穂は寝所の奥にいるはずの少女の許目掛けて足を進める。背後で、既に準備を整えていた弓隊が母屋の前から矢を放つ気配がした。

だが次の瞬間には雷鳴の如き音が轟き、母屋の天井が崩れゆく。すぐさま飛び退いた足穂を除き、他の兵士達は落下した天井の下敷きとなった。

仲間の安否を気にするよりも前に、足穂は視線を奔らせる。立ち込める粉塵の向こう、そのまた向こうにある寝所へ向かう彼の前に、侵入者の一人が立ちはだかる。
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