百一 鬼の国
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る地下神殿。其処に封じられていた妖魔【魍魎】をせっかく解き放ったにも拘わらず、【魍魎】の部下たる幽霊軍団は遺跡周辺を彷徨っていた。
同じ場所をぐるぐると回り、別の場所へは行けず、やっと鬼の国の国境を抜けたと思えば、遺跡の神殿前に戻っている。その上、国境にある砦を襲おうとしても、何か視えない壁が国境付近を取り囲んでおり、軍団は其処から一歩も動く事が出来ない。
ある程度のチャクラを持つ黄泉と四人衆ならともかく、魂の無い人形たる幽霊軍団はこの結界を突破するほどの力を持ち合わせていない。
明らかに何者かが前以て仕掛けておいた術の仕業だろう。
「よもや巫女め…。我の復活を恐れ、予め術を施しておいたか…」
黄泉の体躯に入り込んだ【魍魎】の声が苦々しげに轟く。
主人の口から洩れる人ならざるおどろおどろしい声音を耳にした四人の青年達の背筋に寒気が奔った。姿形こそ黄泉だが、眼の前にいるこの男はもはや自分達の主人では無いのだ、と四人衆のリーダーたるクスナは人知れず沈痛な面持ちで俯く。
主人が黄泉だからこそ従っていた彼は、主の変わり果てた姿を内心嘆いていた。
「いくら我が軍団が強力な勢力を持っていても、この場から出られなければ意味が無い…」
うつろな響きを伴った声が、跪く四人衆の頭上に降りかかる。
「今より直ちに巫女の館へ向かえ…そして巫女を消せ…」
「術者ではなく、ですか?」
思わず口を挟んだクスナの進言を、黄泉は鼻で笑った。
「遺跡周辺の幻術も結界も巫女の命令によるものならば、巫女の傍に術者もいるはずだ…巫女共々、殺せ」
「「「「御意」」」」
頭を項垂れるや否や、四人衆の姿はもう黄泉の前にはいなかった。
篝火がぱちぱちと音を立てるのを視界の端に捉えつつ、黄泉は無人の軍営の中、震える右の手首を左手で握り締める。
「……急げ…」
震えが止まらぬ手をじっと見下ろしながら、黄泉は――【魍魎】は呻いた。
「この肉体が力尽きる前に…」
篝火に照らされ、陣幕に映し出される男の影はもはや人のものでは無かった。
チリリリ、と鈴が鳴る。
警告を告げる鈴を手に、少女は唇を噛み締めた。
また、あの夢だ。寝ても覚めても金髪の少年の姿が彼女の脳裏を駆け抜けてゆく。
瞼の裏に色濃く焼き付いた金色を視るのはこれで何度目だろう。一度も会った事が無いにも拘わらず、少女はもう彼の姿を一生分視た気がした。
彼女は今まで様々な予知夢を視たが、これほど同じ夢を何度も視る事は稀だった。
それだけ自分に深い繋がりと影響を与えるのだろう、と少女は長年の経験から悟る。
あの金色の少年が己の何に関わってくるのか。物思いにふけていた彼女は、外の異変に気づくのが遅れてしまう。
己自身
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