三十二話:戦う意義
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置、角度、エネルギー出力共にディエチの狙撃は完璧であっただろう。現にヘリが飛んでいた場所とほぼ変わらない位置から煙は出ているのだ。
だが、それを彼女と別の位置で見ていた切嗣は即座に狙撃の失敗を悟っていた。熱感知スコープでくっきりとヘリを守りに飛んできた瞬間のなのはを捉えていたからである。
(当たったかどうかの確認の為に残る必要もないだろう。当たろうが外れようが遮蔽物も人もない屋上じゃ簡単に場所を特定されるというのに)
呑気に見物をする暇があれば一秒でも早く逃げた方が良い。一撃で全ての人間を皆殺しにできるのならともかく残った人間に襲われる可能性を考えないのか。ここにはフェイト・ハラオウンに、高町なのは、ヴィータという最高ランクの魔導士が揃っているというのに。
内心で危機意識の薄いクワットロとディエチに溜息を吐くがそれを伝えはしない。正直に言うと切嗣は戦闘機人達のことなどどうでも良かった。それは、後は自分で勝手に何とかするだろうという放任的な考えと、スカリエッティに対する反発心から来るものである。勿論、有用であれば利用するがそれはそれ、これはこれである。
(もっとも、それを分かっていて囮に使う僕も僕だけどな)
案の定、狙撃も防がれた上にフェイトに見つけられて簡単に追いつめられている二人を尻目に切嗣はロケットランチャーを構えヘリに狙いを定める。獲物を狙う狩人が常に一人とは限らない。人は何かを守れたと確信した時、もっとも警戒心が薄くなる。
現になのはもフェイトもヘリのことは既に眼中にない。敵の攻撃があれで終わったと勘違いしている。その隙を作り出し狙うのが衛宮切嗣である。勿論、作戦の秘匿性を高めるために今追われている二人にも意図的に伝えていない。
―――自分を憐れむな。この身は既にただの殺人鬼でしかない。
今すぐにでも投げ出してしまいたいロケットランチャーを無理矢理に掴みヘリを見やる。あの中には聖王の因子を持つかもしれない子が居る。ヘリを操縦する何の罪のない若者が乗っている。何より―――かつて家族と呼んだ女性が乗っている。
かもしれないという仮定を証明するためだけにヘリを撃ち落とす。探せば他にも方法はあるだろう。だが、彼女が敵なのは確定している。ならばここで殺した方が後々で楽になるのは火を見るよりも明らかだ。そう殺せばいいのだ。いつものように、ただ引き金を引くことで。
―――後、どれだけ、家族を殺せばいいのか。
かつての精密さなどまるで感じさせないほどに震える指を理性で抑えつけて引き金にかける。この指にほんの少し力を入れて引くだけで終わる。だというのに指に力が入らない。必死に自分の心に理想の世界を創るためだと言い聞かせ、今度こそ力を入れて引き金を―
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