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魔法少女リリカルなのは 〜彼の者は大きなものを託される〜
プロローグ
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走り出そうとしたところで、彼の目の前で同じ学校の制服をきた女子生徒を見つける。

 彼女は俺の家のお隣……翠屋から、家族に見送られて出てきたようで、明るい笑顔が見ていて気持ちいい。

(翠屋から出てきたってことは、後で挨拶しようと思っていた人達か……)

 そう思って俺は、後でと思った挨拶を今しようと、彼女達の所へ歩み寄る。
 
 ドクンッ。

「ん……?」

 心臓が大きく跳ねた。

 かつてないほど激しい動きで、それこそ全力疾走した後の激しさだった。

 驚いた俺は足を止めて、左手を再び左胸に当てる。

 すると改めて自覚する。

「なんだ……これ?」

 呼吸は決して荒くない。

 そもそも激しい動き自体していないのだから、この状態は異常と捉えるべきだろう。

 だけど、分かる。

 これは病気の症状じゃない。

 生死に関わるような重大なものじゃない。

 これは……感情?

「なら……これって」

 この感覚は初めてじゃない。

 心臓移植後のリハビリの中、何度か似たような症状が出たことがある。

 最初は低下した体力が原因で、すぐにバテたから……なんて思っていたけど、心にまで影響を及ぼす鼓動は、やはり異常だった。

 だから俺の移植手術をしてくれた医師に聞いてみたことがある。

『――――医者が非科学的なこと、確証のないことを言うのは避けるべきだけど、君のような例は珍しくない』

 三十代くらいの男性は、難しい表情で語ってくれた。

『臓器移植の後、移植した人の性格や感情に変化が起こると言うのは世界中で報告されていてね。 一番有力な仮説は、ドナーのデータが臓器に保存されていて、それが移植された際に移った……所謂、記憶転移の可能性だ』

 そう、俺の心臓が俺の意図しないタイミングで変化が起こるのは、持ち主であるドナーの意思が反応したからじゃないか。

 これが医師の仮説。

 もちろん科学的な根拠はないし、あくまで仮説だ。

 今でも多くの学者が研究しているけど、明確な回答は得ていない。

 だけど、俺はその仮説を信じることにしている。

 だって、どんな因果にせよ、俺と近い年齢の人が死んだんだ。

 たった10年ちょっとの、短い人生で終わった。

 そんなの、あんまりじゃないか。

 例え俺の人生を続けさせてくれたとしても、そのために犠牲になったなんて嬉しいとは素直に言えない。

 だったらせめて、一緒に生きていると思いたいじゃないか。

 名前も知らない命の恩人とともに。

 ――――そして今、その命の恩人が自らの意思を表にだそうとしている。

 心臓を激しく揺らし、俺に何かを伝えようとしてる。

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