ひかるもの
[2/3]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
営業はやおら俺の髪を一本引き抜くと、『商品』の頭部を開けて押し込んだ。そいつは暫く青い光を点滅させて、数秒後、また何事もなかったようにジグザグに歩き始めた。
「……なに?」
「遺伝子を登録しました!これでアナタ以外の人間が使おうとすると…」
営業は『商品』の頭部に手を伸ばす。すると商品は、8本ある足の前の二本を持ち上げ、「ま―――!」と野太い声を出した。
「ほら!もうアナタ以外には扱えないんです!画期的!!」
そう言いながら営業は商品の胴体部分をひょいと持ち上げた。商品は軽く胴体を捩りながら、たまに「ま――」と鳴く。ほんと何なのこれ。
「…持てんじゃん」
「もちろん持てますよ!?扱えないですけどね!!さて、気になるお値段は!!」
「買わねぇよ!」
営業は、口をOの字にして俺を見た。
「お買い上げにならないのですか?」
こんなにいいものを?とでも言いたげな顔。なにその自信。めっちゃ腹立つ。
「だって何に使」「あー、仕方ありませんねー!こういうのはどうしてもご縁ですからねー、仕方ない仕方ない、じゃ、今日は失礼しますねーまたご縁があれば!」
奴は想像以上にあっさりと荷物をまとめ、満面の笑みと共にドアに手を掛けた。いやちょっと待てよ。
「ちょっ……最後に言っていけよ!」
「へ??」
「それ……それ!結局何に使うんだよ!!」
「またまたーご冗談をー」
営業はすでにドアの向こうに半身滑り込ませていた。満面の笑みでだ。畜生。
「冗談とかじゃねぇよ!22年生きてきて、こんなの関わったこともねぇ!!」
営業の動きがぴたりと止まり、緩慢な動きで振り返った。その顔には、決して演技ではない、本当に驚愕の表情が張り付いていた。
「……ご存知ない……?」
奴は緩慢な動きで俺と『商品』を見比べ、ついと顎に手をあてた。そして数秒後、元通り満面の笑みを浮かべて顔を上げた。
「…いいんじゃ、ないでしょうか」
「…は?」
「ご存じない、ということは、お客様は知る必要がない、ということでしょう。それで周りのお仲間から浮いたり、仕事で不都合が生じたりしたことはないのでしょう?」
「ないけどよ!…そんな『みんな知ってます、知らないあんたが異次元人』みたいな反応されたら気になるだろう!?ていうか今、内心俺のこと馬鹿にしたよな!!」
奴は満面の笑みは崩さず、それでいて神妙な顔で首を振る。
「いやいや、モノとヒトとはこれすべて巡り合わせ。お客様が無知とか、そういう事ではないのです」
「…巡り合わせ?」
「22年の人生の中、お客様は『これ』を知る機会がなかった。にも拘らず、なんの不自由も感じずに生活していらっしゃる。それすなわち」
すなわち。
「――お客様とこの商品は、巡り合わせが極端に宜しくない。今後必要とする可能性が薄いどころか、
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ