番外編 〜最期〜
あたしの望み
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笑顔が見えた気がした。その顔は、軍人としての彼の顔ではなく、執務室での他愛無い会話をしてる時の……秋祭りの夜店でみんなに振り回されてる時の……調理室で大好きな料理をしている時の……あの、朗らかな笑顔だった。戦闘時の厳しさや険しさもなければ、焼け爛れていった時の苦痛もない、ただただ朗らかな、心からの笑顔だった。
「なんでさ……提督……なんであたしより先に……」
あたしには、人に言えないもうひとつの望みがあった。
『提督ー。ちょっと聞いてよ』
『ん?』
『あたしさ。希望ってか夢っつーか……そういうのがあって……』
『ほう』
『一つは、提督と一緒に、平和な毎日を過ごす』
『いいね。実現させよう』
『もうひとつがさ。死ぬ時は轟沈じゃなくて、今みたいに……惚れた男の腕の中がいいなー……なんて』
『……』
『ほら、艦娘ってさ。死ぬ時は海の上じゃん。そうじゃなくてさ』
『聞かなかったことにしてやるから、二度とそんな話をしないでくれ』
その望みは、もう叶うことはない。なぜならあたしが愛する男は、私より先に逝ってしまったから。
別に深い意味があって言ったわけじゃない。ただどのような形であれ、死ぬ時はこの男に抱かれて死にたい。提督に最期を看取って欲しい。提督とケッコンして何度も彼に抱かれるようになり、この人に最期を看取ってもらいたい……そう思うようになった。
提督がこの話を聞きたがらなかった理由はよく分かる。彼はもっと前向きな話がしたかっただけだ。あたしたちの無事と幸せを願い、そのためならどれだけ上層部から煙たがられようと実現してしまう提督は、あたし達を本当に大切にしてくれていた。
自身が『それがみんなのためになる』と思えば、提督はどんな苦労も厭わなかった。どんなに司令部に煙たがられ憎まれようと、何度も何度も頼み込み美容院を建てた。以前に率いていた鎮守府では、解体処分された艦娘たちの処遇改善の上申書を常々出していたとも聞く。彼はそんな人だ。軍人としての厳しさより、人としての優しさと朗らかさが似合う男だった。
そんな彼が、最前線に建てられたこの鎮守府を任されたのは……ある意味では彼を疎ましく思った司令部の意趣返しかもしれないし、ある意味では名采配といえた。この激戦区……次々と仲間が沈んでいくこの環境下で、皆がそれでも希望を持って戦ってこれたのは、彼の功績が大きい。
そんな提督に、あたしが人生のパートナーに選ばれたことが、あたしにはとてもうれしかった。女性として魅力的な子ならもっと他にもいたし、彼に惹かれる子も決して少なくない中で、彼はあたしを選んでくれた。
『ねえ飛鷹?』
『んー?』
『えとね……』
『なんなのよ急にかしこまって……隼鷹がそんな態度とるだなんて怖いわね……』
『プロ
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