番外編 〜最期〜
帽子
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たまま停止していた。不思議に思った私は、周囲を見回し、背後を振り返った。その時、私に迫っていたのは一発の砲弾だった。砲弾は私のおなかに直撃し、そのまま私を突き破って海面に着弾した。
私は、逃げ切ることが出来なかった。響との約束を守ることはもう、出来なかった。
私の身体が下半身まで海に飲み込まれた頃、私を囲んで砲撃と雷撃を続けていた敵艦隊が次々に撃沈されていった。はじめ私は意味が分からなかったが、もはや胸元まで沈み込んだ私の手を、泣きながら必死に引っ張っているビス子の姿を見て、やっと助けが来たことが理解出来た。
「待って! アカツキ!! 沈んじゃダメ!! あなたは一人前のレディーなんでしょ?! 行っちゃダメ!! 行かないで! アカツキッ……!!」
ビス子が、そのキレイな顔をぐしゃぐしゃに崩してポロポロ泣きながら、私を必死に海から引っ張りだそうとしていた。子どものように泣きわめきながら私の手を引くその姿は、あの時の司令官を私に思い出させた。
――諦めちゃダメだ暁!
――私たちが下から押し上げてあげるから!
――だから暁ちゃんはがんばって帰るのです!
もう海中深く沈んだ私の身体を、響たち三人が必死に押し上げようとしていたが、私の身体が沈むのは止まらなかった。首まで沈んだ私は、ビス子に響の帽子を託した。
「ビス子……ビス子は一人前のレディーなんでしょ?」
「あなたもでしょ?! だったら沈まないで帰りなさい!」
「んーん。暁はもうダメ。だからこの帽子をお願い。大切にしてね」
「そんなこと言っちゃダメ! 帰るのよアカツキ! 私と一緒に帰って、ハルに膝枕してもらうの!! 提督が作ってくれた美味しいお子様ランチ食べるのよ!!」
「ごめんなさいビス子。元気でね」
響の帽子をビス子に託し、もう何もすることが無くなった私は、そのまま全身を海に飲み込まれた。泣かないでビス子。あなたみたいな一人前のレディーに涙は似合わないわ。私も笑顔であなたと別れるから、あなたも笑って?
――ごめんなさい暁 助けてあげられなかったわ
いいのよ雷。身を挺して守ってくれたあなたは一人前のレディーよ?
――暁ちゃんごめんなさいなのです 守ってあげられなかったのです
泣かないで電。あなたの気持ちはお姉ちゃんに伝わったから。お姉ちゃん怒ってなんかないわ。
――ごめん 約束を守らせてあげたかった 私も暁に、約束を守って欲しかった
私こそ、約束を守れなくてごめんなさい。でも、私は響に……みんなに久しぶりに会えて、とても嬉しかったわよ? 出来れば司令官にこのことを伝えたかったけれど……みんなに会えたことを、司令官に教えてあげたかったけど……
……あ、みんなに別れの言葉が言えなかったな……司
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