巻ノ三十三 追撃その十
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「全てわかっておられる」
「ですな、こうした時に攻め」
「そして、ですな」
「敵を散々に打ち破る」
「そうすべきなのですな」
「そうじゃ、ではな」
信之はあらためて言った。
「ここは徹底的に攻めるぞ」
「では」
「このままですな」
「敵を散々に叩き」
「そのうえで」
「上田に二度と攻め込もうと思わせぬ様にしよう、しかし」
ここでだ、信之はこうも言った。川の中で攻められるその徳川の軍勢を見て。
「この状況でも傷付いた者を助けるとはな」
「はい、泳いで」
「そして傷付いた者を助けてですな」
「向こう岸に渡っております」
「それがかえって的になっているというのに」
「見事、これが徳川の兵か」
彼等にも賛辞を送るのだった。
「では傷付いた者と助けている者はじゃ」
「攻めぬ」
「そうされますか」
「武士は戦う者だけを攻めるもの」
武士道だった、まさに。
「だからじゃ」
「はい、ここはですな」
「傷付いた者と助けている者は攻めぬ」
「その様にしましょうぞ」
「是非な」
こう言ってだ、そのうえで。
信之は実際にだった、彼等を攻めさせなかった。だがその攻めは激しく徳川の軍勢を痛めつけていた。
それは幸村が率いる兵達も同じでだ、一気にだった。
左翼から徳川の軍勢に突っ込んでだ、遮二無二攻めていた。
幸村は自ら陣頭に立ち二本の十字槍をそれぞれの手に持ち馬上から振るってだった、徳川の兵達を薙ぎ倒していた。
徳川の兵達は突かれ払われ倒されていく、これには徳川家の旗本達も驚愕した。
「あの猛者は何じゃ」
「真田家の次男源四郎幸村殿らしいぞ」
「何っ、真田にはあそこまで強い者もおるのか」
「昌幸殿の鬼略だけではなく」
「しかもじゃ」
さらに言うのだった。
「源四郎殿の周りにいる者達」
「十人おるが」
「その十人がどれも強い」
「何じゃあの者達も」
「鬼の様に強いぞ」
「腕に確かな者が向かってもすぐに倒してしまう」
「何という者達じゃ」
こう言ってだ、次第にだった。
徳川の兵達jは幸村と彼の周りの十人の者達から距離を置いた。鳥居はその状況も見て、だった。そのうえで。
軍勢全体にだ、こう告げた。
「急げ、敵の攻めが激し過ぎる」
「はい、右から左に」
「そして正面からも」
正面からは昌幸自らが率いる軍勢が攻めて来ているがだ、その勢いも左右からの攻めに劣らないものだった。
それでだ、こう言ったのだ。
「このままではどうにもならぬ」
「ただ討たれるだけですな」
「まさに」
「そうじゃ、だからじゃ」
それで、というのだ。
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