巻ノ三十三 追撃その九
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「そうしてきたわ」
「軍勢が一番弱い時に」
「まさにその時に」
「うむ、これは辛いが」
しかしと言う鳥居だった、この状況でも目は死んではいなかった。
「踏ん張るぞ」
「さもなければここで皆死ぬからこそ」
「是非共」
「そうじゃ、戦うぞ」
こうしてだった、鳥居は自ら戦い軍勢を逃がしにかかった、昌幸は自ら馬を駆り軍勢を率いつつ己の後ろに控える信之と昌幸に告げた。
「よいか、これよりな」
「川を渡る徳川の軍勢を」
「これより」
「徹底的に攻めよ」
こう告げるのだった。
「わかるな、攻めることはな」
「火の如し」
「そうして攻めるものですな」
「そうじゃ、信玄様のお言葉通りじゃ」
彼が仕えたあの男のことを言うのだった。
「攻める時はそうせよ」
「そして徹底的に攻め」
「敵を打ちのめすのですな」
「わしも行く」
昌幸もと言う。
「御主達はそれぞれ軍勢の左右を率いよ」
「畏まりました」
「それでは」
二人はそれぞれ父の言葉に頷いた、そうして。
真田家の軍勢は六文銭を掲げて一気に攻めにかかった、川を渡ろうとする傷付いた黄色の軍勢に赤い無傷の者達が後ろから襲い掛かった。
鳥居は自ら槍を振るい敵に向かった、だが。
やはり傷が大きかった、徳川の兵達は真田の攻撃を受けると。
何とか軍勢の形を保っていたが一人また一人とだった、傷をさらに受け倒れていった。信之は右手から川を渡ろうとする軍勢を襲った。
「川を渡っている者達にだ」
「はい、弓矢をですな」
「放つのですな」
「馬に乗ったまま、駆けながらじゃ」
立ち止まることなく、というのだ。
「攻めよ」
「そして炮烙もですな」
「それも」
「派手に投げよ」
こちらもというのだ。
「駆けつつな」
「立ち止まることなく」
「そのうえで」
「そして休まずじゃ」
こうも言うのだった。
「わかったな」
「はい」
兵達は信之の言葉に頷いてだ、そして。
実際に激しく駆けつつだ、川を渡る兵達にだ。
弓矢や炮烙を放つ、矢が容赦なく川の中の兵を貫き炮烙の激しい音が鳴る。その二つが徳川の兵達を倒し。
赤備えの兵達は次から次にと駆けつつ車の様に周り攻める、徳川の兵達は傷付き川の流れに絡め取られていった。
「くっ、逃げよ!」
「これはたまらぬ!」
「川の向こうに行け!」
「急げ!」
こう言ってだった、皆必死に泳ぐが。
それがかえって守りが弱くなりだった、次から次に。
信之の軍勢の的になった、信之も采配を執りながら言った。
「やはりな」
「はい、川を渡る時こそ」
「その時こそですな」
「攻め時」
「兵法にある通りですな」
「そうじゃ、流石は父上じゃ」
昌幸への敬意も言うのだった。
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