原作開始前
EP.5 幼き想い
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リュシカは、彼女がそんなふうに言う程に辛いことがあったのだろうと察し、それ以上は何もせず、また何も言わなかった。
元来彼女は他人に関わろうとしないが、かつて同じ紋章を背負った旧友の頼みを断るほど冷たい性格をしてはいない。ましてや患者は幼い少女だ。顔に傷が残る辛さは理解できる。
「……そうかい」
妖精の尻尾の顧問薬剤師として、そして治癒魔導士としてのプライドもあった。
だが、物憂げな表情で心を閉ざしていたはずの少女が浮かべている笑顔を止めてまで、それを押し通す気にはなれなかったのだ。
願わくば、彼女の未来が幸せに溢れる物でありますように。
ポーリュシカにはただそんな風に祈る事しかできなかった。
= = =
ポーリュシカに目を治癒してもらい、マグノリアに帰る森の中で、エルザは考えていた。
「(ジェラールは、その後ろ姿を見ていることしかできなかった)」
皆のリーダーだった彼は、誰よりも前で自由を謳い未来と理想を求めた彼は仲間を庇って自分を犠牲にできるほど高潔で、いつだって皆に認められ、慕われていた。自分もその皆の内の一人だ。
彼はいつでも、誰にでも手を差し伸べていた。一緒に行こう、と。
でも変わってしまった。最悪の黒魔導士ゼレフの亡霊に憑かれて憎しみの赴くままに魔法の力で塔の神官を虐殺し、それを拒んだエルザに手を上げ、目を覚ましてと叫んでも『いらない』と一人海に放り出した。
伸ばした手は届かなかったのだ。
心が軋む。痛む。悲鳴を上げる。
まるでこれ以上彼の事を考えるのを拒否するかのように。
そこで、今度は自分を拾い、治療を施して魔法を教え、ここまで連れてきてくれた男の子の事を想う。
「(ワタルは私の横で歩いてくれる。隣に居てくれれば、どこまででも歩いて行けそうだ)」
彼の隣は温かく、居心地が良かった。
何故だろう――エルザはこの一ヶ月を振り返り、そう思う。
何度も身体中の怪我の治療をしてくれた。一人で歩けば早いだろうに、遅い自分の歩みを合わせて歩いてくれた。眠れないときは自分が眠りにつくまで話し相手になってくれた。請えば魔法を、魔力の扱いを、剣の握り方を教えてくれた。
そして、目を治してやってくれと頼んでくれた。悪夢の中で自分の手を取ってくれた。此処にいるからと笑いかけてくれた。
何てことだ、自分は与えられてばかりではないか。
心地良いのも当たり前だ、親に甘える子供と同じではないか。
逆に自分は彼に何かをしてやれただろうか。いや、塞ぎこんで自分の殻に閉じこもっていただけだ。ぬるま湯と言ってもいい。
ならばと、エルザはより一層決意を固くする。
彼の隣に居ても恥ずかしくないように強く
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