暁 〜小説投稿サイト〜
鎮守府の床屋
後編
9.店の名前は……
[1/4]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 昔からうちのじい様と懇意にしていたという不動産屋の紹介で、俺は新たなテナントを借りることが出来た。大家との度重なる交渉の末、元々の賃料からかなり抑えたリーズナブルな金額で借りることが出来たのは幸いだ。

 北上が生還し、俺の隣に球磨が戻ったその日のうちに、俺は新たな店を作る計画を立てた。球磨と北上は身寄りがない。軍に戻ることも考えたそうだが、それは俺が制止した。

「ハルー。球磨たち、軍に戻ったほうがいいクマ?」
「私もそれ考えてるんだよね」
「なんでだよ?」
「球磨たちはずっと軍にいたから、普通の生活ってよくわかんないクマ……」
「私たち、何ができるかなんてよくわかんないし……」
「特に何をやってもいいとは思うけど、軍に戻るのはやめろ。それは俺が提督さんに怒られる」

 俺は、提督さんが戦後の艦娘の処遇を心配していたのを覚えている。こいつら艦娘に、戦後の平和な世界を生きて欲しいと思いなからも、現実問題として雇用や社会生活の面での心配をしていた。

 確かに軍に戻れば楽だろう。今まで軍の中で生活してきていたのだから、それがそのまま今後も続くだけだ。今までの生活と何も変わらない。

 でも俺は、それは提督さんへの裏切り行為に思えてならなかった。提督さんがあの心配をしていたということは、逆に言えば、艦娘の軍への復帰はまったく考えてなかったということになる。ならばあの人の親友として、二人のことを託された俺が、提督さんの意に沿わないことをするわけにはいかなかった。

――ありがとう ハルに任せて正解だった

 そう言ってくれると、親友になった甲斐がありますよ提督さん。

――あたしたちの分まで幸せになりなよ

 任せろ。お前と提督さんが成し遂げられなかったことは、俺たちが代わりに成し遂げる。隼鷹たちの分まで。

 というわけで、俺は二人を当面の間養う決心を固めた。

「とりあえず二人はここに住んでバイトでも探せ。俺はまた店を始める」
「「わかった」クマっ」

 北上は割とすぐにバイトを見つけてきた。なんでも隣町にもうろくした爺さんが経営している昔ながらの喫茶店があるらしく、そこでバイトをすることに決めたようだ。

「ねえねえハル兄さん」
「なんだよ。お前がハル兄さんって呼んできた時は悪い予感しかしない……」
「隣町だから通勤が大変なんだよねー……あー……足が欲しいなー……」
「……俺が昔使ってた原チャリがあるから、それ乗ってけよ」
「あ、いいの?」
「それよりお前、免許は大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫。なんとかなるから」

 そういって北上は、ヘルメットをかぶって原チャリにまたがり、軽快なエンジン音を鳴らしながらジト目で走っていった。

「……なんであいつ、原チャリに乗る時ジト目なん
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ