第1章始節 奇縁のプレリュード 2023/11
4話 燻る苦悩
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と結婚して………そのまま、私は現実でも偽りの自分を演じなくちゃならなくなってしまったの。そうしないと、私はあの人を裏切ってしまうことになるから。でも、そう思うほどあの人の優しさが怖くて、痛くて、でも、本当の私を見せる勇気も無くて………段々、疲れてしまったの………どうしてかな。もう少し頑張って、ここでも《争い事の嫌いな回復職》らしく居られれば良かったのに、私は………」
――――完全な仮想世界に来てようやく、偽りの仮面を外した、外してしまった。
――――その所為で、旦那の心に何か壁のようなモノが出来てしまったのだ、と。
そこで、グリセルダさんの独白は途切れた。
なんというか、なんというべきか、いや、もし仮に返答を求められているならば、これこそ俺如きではなにもいえないような難問だ。気まずさが先行して思考を淀ませていることも一因だろう。いや、考え付いた一言が赤っ恥に直結することさえ想像だに易いというものだ。
「ねえ、もし君が、この荒んだ世界で信じていたパートナーが突然変わってしまうような目に遭ったら………やっぱり、嫌かな?」
サバサバした印象の横暴なグリセルダさんではない、これは旦那さんの前で見せていた《優しい方のグリセルダさん》か。或いはそう見えるだけか。いずれにしても、よもや独白を静かに聞くだけでは容認してくれないらしい。一つ溜息を吐きつつ、それでも俺は素直な見解を述べねばならないのだろう。憂鬱な気持ちは呼気と一緒に吐き出すことは出来ない事など、とうの昔に検証済みだというのに、それでも学ばない自分に辟易しつつ、重い城門めいた口を努めて開いた。
「グリセルダさんが剣を握ったのは、演技に疲れたからなのか?」
「違うわ………私はただ、もう一度あの人と一緒に普通の生活に戻りたかっただけなの………」
「なんだ、そうか」
やっぱり、どうあっても根は優しいじゃないか。
額面通りの横暴な性格であったならば、そもそもこんな可愛らしいことで悩みさえしない。そうであったならば俺は《グリセルダさんの暴虐に晒されているであろう》旦那さんを救うべく尽力せねばならなかっただろうに。今度は溜息ではなく、掠れた笑いが零れた。
「だったら心配はいらない。どんなに表面を取り繕ったって、グリセルダさんの内側はそうそう変わらないものだと思う。だって、他人に伝わるような優しさってのは演技じゃ無理なんだよ。旦那さんに、グリセルダさんの事を嫌いになる理由なんてない」
言いながら、俺は思い出す。
はじまりの街を後にした、もう少しで一年前になるあの日。死ぬことを前提としていた俺が今もなお生きているのは、あの時のヒヨリの優しさがあ
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