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ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
第1章始節 奇縁のプレリュード  2023/11
4話 燻る苦悩
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……そうね、後悔してるのかも知れない。でも、目を背けたくもないの」
「………何だか、複雑なんだな」


 自分から話題を振っておいて尻込みしてしまうのは些か情けなく感じるが、それでも自身の為し得る限りで最も無難な返答を選択する。我ながら苦しい解答に、グリセルダさんは俺の内心を知ってか知らずか僅かに笑みを零しながら、口を開いた。


「私ね、旦那がいるの。趣味って言ってもネットゲームなんだけど、そのオフ会で始めて会ってから意気投合しちゃってね。結婚まではあっという間だったかな。それなりの期間はちゃんとお付き合いもしたんだけど、気付いたら結婚してたってくらいだったわ」


 振り返り、昔を懐かしむように語るグリセルダさんは遠くに視線を向けているようにも思える。
 距離ではなく、時間上において隔てのあるそれを憧憬するように懐かしむ。しかし、懐かしむにしては表情から見て取れる寂寞は過分に見えてならない。ふと、嫌な予感が過る。


「そんなこんなで趣味が一致してるから、おかげで一緒にSAOに閉じ込められちゃったってわけ。まあ、両方生きてるだけ良かったわよね」


 あっけらかんと、まるでタネ明かしでもするかのように締め括られたグリセルダさんの惚気話(のろけばなし)に、脳裏にこびりついた不安めいた予感は霧散する。話を広げておいて、旦那さんと離れてしまったか、或いは死別してました。なんてオチだけは御免被る。
 少なくとも、この点については話題として継続しても差し障りはなさそうだ。


「とは言っても、こんな状況になって………ううん、こんな状況だからこそかな。私は、いつの間にか旦那の前で《演じること》をやめちゃってたんだ」
「演じる………」


 俯いた視線と一緒に呟かれた、どこか仄暗いものを孕んだその言葉を繰り返して、その真意を知るには然して時間を要することはなかった。
 旦那さん、俺の与り知らぬ彼とグリセルダさんとの馴れ初めは、タイトルこそ分からないがネットゲームだ。
 そもネットゲームとは自身の依代となるアバターを介し、同様のプレイヤーが同時に存在するマップ内にてプレイされる。その場において、個人のパーソナリティは今日まで積み重ねて蓄積されたものが予め認知されるのではなく、そこでプレイした個人の振る舞い(ロールプレイ)によって再構築される。つまり、リアルとは異なる自分を《演じられる》場とも言えるだろうか。ネットゲームの中では、決してリアル通りに振舞わねばならないという制約は存在しないのである。


「旦那と出会うキッカケになったゲームでね、私は大人しくて物腰の柔らかい性格を演じていたんだ。そういう人物像(ひと)に憧れてたのかな。ゲームの世界の延長線上のつもりで、そのオフ会でも同じように振舞って、今の旦那
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