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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 4
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もないけどさ……」
 ついさっきまで居た空間を思い出し、暖かい潮風を受ける体がぶるりと震えた。
 こんな思いを、あと何回しなくてはいけないのだろうか。仕事はさっさと終わらせても良いが、海賊との受け渡しは五日後の深夜。それまでずっと指輪を隠し持っているのは、対自警団的に危険度が高い。教会が荒らされたらしいなどと噂にでもなったら、神父に熱を上げてる女衆もどう出るか。下手を打てば自分の四方八方が塞がれてしまう。
 そう。
 正直、ミートリッテはかなり追い詰められていた。いろんな意味で。
 一番の要因が地元民の女心だとは想像もしてなかったが。
 「はぁああぁー……。家に帰って寝たい……じゃない! 崖を見に行くんだってば! 崖!」
 ぶるぶると勢いよく首を振り、下がりに下がった思考を払い除ける。
 両手を左右それぞれの肩に引き寄せて拳を握り、目蓋を閉じたまま「よしっ!」と気合いを入れ、キッ! とネアウィック村の南端を見据えた。
 てかてか光る海面に目を焼かれそうになって「ふぎゃっ」と情けない悲鳴を上げたのは、ご愛嬌だ。
 「あれー? ミー姉がいるー」
 縦横無尽に走り回る子供の集団と、彼らを見守る数人の大人達。長閑かな光景を横目に白砂をさくさく踏み進めていると、波打ち際で沖を眺める少女に遭遇した。
 年の頃は十二から十三。幼い子供特有の丸みを帯びた白い顔や体は頼りなく、感情の動きが殆ど見えない表情と柔らかく揺れるフリル付きの蒼いワンピースが相俟って、アーレスト神父とは毛色が違う可愛らしいお人形然とした印象を受ける。
 彼女は海の碧に映える華やかな金色の長い髪を風に流し、右の青と左の紫で色彩が異なる両の瞳をこてんと傾けた。
 「やっほー、アルフィン。なんかすっごい久しぶりね。元気してた?」
 ミートリッテが右手を軽く振って近付くと、アルフィンも体の向きを変え、抱えているイルカのぬいぐるみの胸ヒレを振って応えた。
 「うん。ミー姉はいつも忙しいもんね。今は仕事上がり?」
 「ええ。ちょっと崖まで観光に」
 「……崖?」
 きょとんとするアルフィンの前で両手を重ね合わせ、薄く紅に色付いた自身の頬に甲を当ててうっとりと頷く。
 「そう、崖。魅惑的で刺激的で甘美な響きよね。崖……」
 「ごめん。何を言ってるのかさっぱり解らない。」
 「なんで!?」
 「なんでって……尋かれても困るよ、ミー姉」
 無表情でイルカを抱き締めるアルフィンに、今度はミートリッテが腕を組んで首を傾げた。
 「うぬぅ……崖を話題にするとハウィスにまで苦笑されるのよね。どうしてかしら。あんなに素敵な謎物質、滅多に無いのに」
 「謎物質?」
 「謎でしょ? なんだかよく解らないけど、みんながみんな落ちちゃうんだよ? 危ないって判ってる筈なのに! 高い所なん
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