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八神家の養父切嗣
三十一話:理想の代償
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反らしてこの地獄を忘れてしまいたかった。だが皮膚にかかる生温かい血と肉片がそれを拒む。

 逃げるな。目を反らすな。己の罪を直視しろ。死んだ人間の有様を忘れるな。これはお前が選んだ結果だ。男の声が現実味のない夢のように聞こえてくる。

「どちらか片方を選んでいれば両方を死なすことはなかった。両方救おうとしたから両方とも僕に殺された」
「じゃあ、どうしたらよかったのッ!? 四人を救えばよかったのッ!?」

 噛みつくように、迷子になった子供のように不安で泣き叫びながらスバルは叫ぶ。男はそんな彼女にゆっくりと今しがた人を殺した人物とは思えぬ落ち着き方で話しかける。

「答えなんてない。仮に二人を見捨てて四人を救ったとしてもそれは救った内に入らない。本当の救いとは程遠い。そういう点では君の選択は間違いではなかった。だが、結果がついてこなかった」
「本当の救いって……なに!? あたしはただ誰かを救いたいだけなのに…ッ!」
「目を反らすな、スバル・ナカジマ。君の願いは、誰かを救いたいという願いは所詮は君のエゴだ。君も僕も自分が救われたいから、全ての人間を救った先に自分が救われると信じているから誰かを救っているに過ぎない」

 男の言葉が刃となり深々とスバルの心臓に突き立てる。誰かの為などと言葉を偽るな。自分達が行っていることは所詮偽善に過ぎない。誰も救って欲しいなどと自分に頼んでいない。ただ自分が欲望を満たしたいから無理をしてでも首を突っ込んでいるだけ。

 事実だった。自分が救われたいから人を救っていただけの話。願いなんて何でもよかった。ただ、誰かを助けたいという願いが綺麗だったから憧れただけ。そんなものは偽善だ。そんな偽善で一体何を救おうとしていたのだろうか。

「いいかい、正義の味方なんてものは所詮はエゴの塊だ。でも、そのエゴを貫いたところで自分一人救えやしない。本当の意味で誰か一人でも救えたことなどない! 当たり前だ。世界の全てを救いたいと思っても掌で掴める量は決まっている。両方を選び、両方とも救って見せる英雄も偶にはいるさ。だが、そんな英雄だとしても所詮は人より掴める量が多かったに過ぎない。自分の掴める量を超えれば結末は万人と同じだ!」

 鬼気迫る表情で男は語っていく。その背後には今まで彼が切り捨ててきた人間達が見える様だった。人よりほんの少し掴める量が多かったが故に取りこぼすことを、切り捨てることを許せなくて必死に手を開いて結局その全てを失った人。そんな哀れな人間が、自分が辿るかも知れない末路が男の正体なのだとスバルは理解してしまう。

「それでも君は全てを救うと言い張り続けられるのか? 無数の屍を踏みにじりながら正義を謳う大量殺人鬼を目指すのか? もう一度よく見てみろ。君の選択で死んだ彼らの姿を。正義の味方が切
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