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八神家の養父切嗣
三十一話:理想の代償
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体を弄ばれて研究の材料にされることだ。培養層に戻されれば役目が終わるまで死ぬこともできない。生命の自由など欠片もない。彼ら()また死ぬことこそが最後の救いだ。だから君は―――恥じることはない」

 何かが壊れる音がスバルの頭の中に響く。理解してしまった。男が何を言わんとしていたのかを。『恥じることはない、彼らを殺したことを。君は彼らを救ったのだから』そう告げられていたのだ。責められていたのだ。人質に取られた者達を殺すきっかけを作ったのは他ならぬ、自分だと。

「あ……あ、ああ…っ!」
「世の中には人体を内側から爆発したらどうなるのかと、純粋(・・)に興味を持つ奴も居てね。彼らはそれを確かめるためのモルモットで僕はその手伝い。もっとも、データ採取なんて二人もやれば十分だったんだけどね」

 男の目が生き残りである四人の方に向く。それを見てスバルは察知する。彼は殺すつもりだ。何の情けもなく、容赦もなく、ただ機械的に自分がすべきことを為すだけだ。スバルは必死に男にやめてくれと請う。

「や、やめて…っ!」
「殺すのは僕だ。そして彼らも死んだほうがマシな扱いを受けるよりはいいだろう。でも、忘れるな。選んだのは君だ。全てを救うことを目指す以上は全てを失うのも常に隣り合わせだ」

 だが、男は冷たく言い放ち、まだ残っていた四人の方にリモコンのようなものを向ける。スバルはそれを見て真っすぐに走り始める。人質を庇うように、悲鳴を上げながら手を伸ばす。その手が届くことなどありはしないと知る故もなく。

「やめろォオオオッ!!」
「覚えておけ、全てを救うことを目指すということはこういった光景を何度も目にすることだ」

 スバルの絶叫にも耳を貸すことなく、男は淡々と呟き指先を軽く動かす。スバルも手を伸ばす。あと少しで届く、この手が届けば救うことが出来る。そう何の根拠もなしに考え無我夢中で手を伸ばす。残り数センチ、届くはず。だが……。

「何度も指の先から命が零れ落ちていく光景に君は耐えられるか?」

 届くはずはない。その命の終わりを選択したのは彼女自身なのだから。頭蓋が割れ、脳髄が目の前に飛び出てくる。肉の焼ける焦げ臭い匂いが鼻孔をつく。目の前が鮮やかな赤色に染まる。生き物のはらわたの色が嫌というほどに目に映る。足元に転がってきた眼球が責めるように見つめてくる。

 砕けて吹き飛ばされた骨が弾丸のように彼女の肌を傷つける。死者のそれとは違う生き生きとした血が彼女の頬を伝う。だが、しかし。彼女にはそんなことなどどうでも良かった。そこに死があった。あの日から目を反らし続けてきた死があった。自分が死なせてしまった者が居た。

「――――――ッ!」

 それを認めたくなくて、否定するようにスバルは絶叫する。逃げたかった。目を
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