後編
7.最後の客
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俺の隣に帰ってきた。そのアホ毛をうにうにと動かしながら、俺の手を取り、俺と一緒に歩いてくれていた。俺が油断した時には、こいつは妖怪浴衣女や妖怪ハニカミ女に変身して、俺に核ミサイル級のダメージを与えてきた。
いつも俺の目の届くところにいて、一番俺の目を引く笑顔で、俺の手を取り、引っ張って、振り回していた。
いつまでも振り回していて欲しかった。こいつに手を引っぱられ、困らせられ、ツッコミを入れられ……そして隣で笑っていて欲しかった。一緒にいたかった。
「なー。球磨?」
「クマ?」
「やっぱりお前も戦うのか?」
「そうクマね」
「逃げないのか?」
「うん」
「なんでだよ。死ぬかも知れないだろ?」
「……」
「俺の隣にいてくれよ。お前が一緒にいないとつまんないよ」
「……球磨も、ずっとハルの隣にいたいクマ。ハルの隣で笑っていたいクマ」
そっか。俺の片思いじゃなかったんだな。安心した。よかった。
「でもダメクマ。逃げたくないクマ」
「どうしてだよ?」
「球磨はみんなを守りたいんだクマ」
「みんなって?」
「北上、隼鷹、加古、提督……市街地のみんな、川内が助けたミアとリリー……」
「……そうだな。みんな大切だな」
「それにみんなの思い出が詰まった鎮守府……」
「……」
「あと、バーバーちょもらんまとハル」
球磨らしい返答に、恥ずかしいような嬉しいような、複雑な感情を抱いてしまう。でも悪い気はしない。
知ってるか? あの肝試しの時、お前が単装砲を構える音が、めちゃくちゃ心強かったんだぞ? お前のぬくもりが、どれだけ俺に勇気をくれたことか……あの日お前が俺におぶさってなかったら、神社を見つけた時に社に突撃なんて突拍子もないこと出来なかったんだぜ?
「うるせー。お前に守られんでも力強く生きていけるわ」
「安心したクマ。その調子で元気で生きていくクマよ?」
「黙れ妖怪アホ毛女。なに最期の別れみたいな事言ってんだ。お前も一緒に決まってるだろ」
「……」
「こっちは惚れた女と一緒に生きていきたいんだよ」
「……うん」
最期にもう一度、アホ毛にハサミを入れた。さくっという手応えと共に切られたアホ毛は地に落ちたが……
「……やっぱダメか」
「んふふー。修行が足りんクマっ」
やっぱり新しいアホ毛がびよんと立ち上がった。俺とアホ毛の戦いもこれで終わり。結果は全敗という散々な結果だった。床屋としては恥ずべきことだが、なぜか俺はアホ毛に最期まで勝てなかったことにホッとした。
カットはこれで終了。最後に耳掃除をしてやる。
「ほら。早くこっちこい」
「クマっ」
惚れた女の耳を、膝枕で丁寧に掃除してやる。少しだけ涙で視界が滲んだが、努めて視界が歪まない
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