後編
7.最後の客
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たシザーバッグを腰に回し、キャスター付きの椅子に座って球磨の背後に回る。
「で、妖怪アホ毛女。今日はどうする?」
「ハルのセンスで整えるクマ」
「了解した。アホ毛は?」
「任せるクマっ」
「シャンプーと耳掃除も?」
「全部やるクマっ」
了解した。このバーバーちょもらんまの最後の客だ。いっちょ気合を入れてやったろうじゃないか。
まず最初に、球磨の髪をシャンプーする。シャンプー台で仰向けにし、顔をタオルで隠し、湯加減を見て髪を洗ってやる。
「球磨ー」
「クマ?」
「どこかかゆいところはありませんかお客様ー?」
「左足の裏の親指の付け根から5ミリほど下がったとこあたりが痒いクマ」
「分かってると思うが却下だ」
「……たく。最後まで融通の効かない床屋だクマっ」
「言ってろ妖怪足の裏女」
シャンプーが終わったら、毛先の傷んだ部分をカットしてやる。霧吹きでアホ毛をほんのりと湿らせ、ハサミを入れてみた。
――さくっ
あの時と同じ感触が俺のハサミに走ったが、その直後、後ろ髪の一部がアホ毛と化してびよんと立ち上がり、自身の存在を周囲にアピールしていた。
「……最後まで切れなかったな」
「ぷぷーっ。球磨のアホ毛を切ろうなどとは片腹痛いクマっ」
「うるせー妖怪アホ毛女」
「クマクマっ」
引き続き、球磨の毛先を整えていく。静かな店内には、ハサミを動かすちょきちょきという音が鳴り響いている。いつも以上に静かな店内だ。
いつもこの店内は賑やかだった。客の数こそ少なかったが、毎日のように北上が長ソファに寝転がってマンガを読みふけり、加古が空いた散髪台を倒して眠りこけていた。ドアが開いたかと思えば暁ちゃんとビス子が『一人前のレディー!!』と誇らしげに声を上げ、夜になれば酒をかついで隼鷹がやってくる。夜十時を過ぎれば川内が『やせーん!!!』と騒ぎたて、この店が静かになることはなかった。毎日が賑やかで、俺は毎日みんなに振り回されていた。
「なー。球磨?」
「クマ?」
「楽しかったな。バーバーちょもらんま」
「そうクマね」
特にこの球磨というやつは、おれを終始振り回し続けた。常に霧吹きを片手に店内を歩きまわっては俺と店に過剰に湿度を供給し続け、俺のボケと妄想に必要以上に激しいツッコミを入れ、大掃除をサボりたいが為に営利誘拐まがいのことをしでかし、初対面から何度も俺の腹にコークスクリューパンチを突き刺した妖怪アホ毛女。
そして、肝試しの時は俺を守ってくれた。暁ちゃんが亡くなった時は、みんなをフォローし、俺の前でだけ泣いた。合同作戦の時は、勘違いして早とちりした俺を抱きとめ、涙を拭いてくれた。
気がついたら、こいつは常に俺の隣にいた。どれだけ大暴れして大怪我しても、
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