暁 〜小説投稿サイト〜
鎮守府の床屋
後編
7.最後の客
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子供心にこの言葉は、すぐにウソだと分かる。

「……ああ。約束する。必ず生き延びるよ。そしたら今度は、球磨も入れて四人で酒でも飲もう。四人で、月を眺めて波の音を聞きながら、うまい酒飲もう」

 俺は提督さんのこの言葉を、すぐに嘘だと見破ってしまった。でもそれが提督さんに伝わらないよう、努めて安心した素振りを見せた。

「……やっと今日、タメ口で話してくれたな。ありがとう。うれしかったよ」

 執務室を出る寸前に聞いた、この提督さんの感謝のセリフが、俺が聞いた提督さんの最期の声だった。こんなことで感謝してくれるような人なら、もっと早くタメ口をきけばよかった。そのことが、俺の中で小さな後悔として残った。

 その後、荷物をまとめるためにおれは一度店に戻った。いくら早急に避難といっても、最低限持っていかなければならないものもある。まずはじい様から受け継いだカミソリ。そして球磨がずっと店の中で過剰な湿気を供給していた霧吹き。

「……そうだ。シザーバッグとハサミ……」

 シザーバッグを忘れないようにバッグ入れようとして、以前に球磨が描いたイラストが目に入った。俺が初めて球磨のアホ毛の処理にチャレンジして失敗したその日から、妖怪アホ毛女は時間を見つけては、俺のシザーバッグに一人また一人と、この鎮守府のメンバーの似顔絵を描き足していった。

 急いで準備しなきゃいけないというのに、妙に懐かしい気持ちが再燃して、俺はシザーバッグのイラストを眺めた。俺のシザーバッグには、球磨を筆頭に北上や隼鷹、加古……そしてビス子や川内、暁ちゃんの似顔絵が描かれている。俺がここに来て間もない頃の、俺が知っているメンバー全員が、この中に揃っていた。

 懐の中に手を突っ込んだ。懐には、さっき提督さんから譲り受けた秋祭りの時の写真が入っている。このシザーバッグと写真は、絶対に持ち帰らなくてはならないものだ。俺がここに来た証だから。素晴らしい仲間と共にこの鎮守府で、床屋として充実した日々を過ごしてきた証なのだから。

 感傷に浸っていると、カランカランという音が鳴り、店の入口が開いた。

「ハルー」
「おう。妖怪アホ毛女」

 入り口に立っていたのは、妖怪アホ毛女だった。

「髪を切って欲しいクマ」
「……ん?」
「髪を切ってシャンプーして、耳掃除して欲しいクマ」

 俺は覚えている。バーバーちょもらんまではじめてシャンプーをしたのは、この妖怪アホ毛女だった。暁ちゃん、加古と共にこの店の立ち上げを手伝ってくれ、そのお礼にシャンプーしてあげたのが、このバーバーちょもらんまの華麗な歴史のはじまりだったんだ。

「……最初の客が最後の客かー」
「んふふー。そうクマ」

 俺の返事を待たず、球磨は散髪台に座った。俺は球磨が落書きし
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