7部分:第七章
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第七章
「地球の生き物か?」
「犬です」
はっきりと答える真央だった。
「これは犬です」
「犬なのか」
「そう見えますよね」
「見えないから聞いたんだが」
まだ呆然としている先生だった。
「ちょっとな」
「そうですか?」
「ああ。けれどとにかく宿題はしてきたか」
その奇怪な生物を見ながらだ。先生はとりあえず自分を納得させた。
「それならこれでいいか」
「それで得点は」
「測定不能だな」
アザラシにも蛇にも見える怪生物を見ながらの言葉だった。
「これではとてもな」
「けれど宿題は出しましたよね」
「ああ、それはな」
そのことはだ。事実だと先生も認めた。
そのうえでだ。真央にこう話した。
「じゃあ皆の作品と一緒にな」
「スケッチのコンクールに出してくれるんですね」
「分け隔ては教育として最低の行為だ」
もっともそれを平然とする教師ばかりだ。それが我が国の教育だ。
「そんなことはしないからな」
「有り難うございます」
「まあこっちはそれでいい」
美術の方はだというのだ。
「ご苦労さん」
「有り難うございます」
美術はこれで終わりだった。そして課題は先生に胡散臭い目で見られた。だがそれも終わり最強最後の難関はだ。先生にこう言われた。
初老の少し太った女性の教師だ。彼女は真央の雑巾を見てだ。すぐに困った顔になってだ。それでこう彼女に問うたのであった。
「ええと、雑巾ですよね」
「はい、そうです」
「確かに雑巾ですが」
大きさや形を見ればだ。そうとしか思えない。
だがそれはだ。どうにもだった。
「ですが。これは」
「おかしいですか?」
「何といいますか」
まさに奥歯に何かが挟まった口調だった。
「これはその」
「駄目でしょうか」
「いえ、雑巾なのはわかりますから」
まだ一度も使っていない筈なのにボロボロになっていてしかもあちこち血で汚れてドス黒くなっているその雑巾を見ながらの言葉である。
「ですから合格です」
「有り難うございます」
「合格は合格です」
こんなことも言う先生だった。
「それに努力もされましたね」
「えっ?」
「仁品さんの手を見ればわかります」
その傷だらけの手、バンソウコウを何枚も巻いているその手を見て言うのだ。
「大事なことはです」
「大事なことは?」
「努力です」
この先生もだ。教育者としての節度を守っていた。立派である。当然であるがそれができている教師は戦後急激にいなくなっているからだ。
「それをされましたから」
「私は別に」
「努力は見えるものですから」
真央の謙遜はここではいいとしてだった。
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