第二百四十七話 待つ者達その三
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「柴田殿のご子息がいいですね」
「柴田の爺のですね」
「そうしましょう」
「では叔父上、父上とお話をして」
「その縁談を進めていきましょう」
娘に笑顔で話す、そうした話もしたのだった。
そしてその羽柴の妻であるねねはだ、安土の羽柴家の屋敷で前田利家の妻まつと共に果物を食べつつだ、明るく笑って言った。
「いや、こうした果物も」
「いいものよね」
「全くだね、しかし」
「しかし?」
「いやね、私達ももう何十万石もの大名の奥方」
こう笑って言うねねだった。
「偉い筈だけれどね」
「それが二人だとね」
「こうして昔のままの」
「只の武家の女房」
「私なんかあれだよ」
整っているがそれ以上に人懐っこい笑顔でだ、ねねは言った。
「今も百姓の女房だよ」
「ねねさんはそうかい?」
「そうさ、何とか尾張の言葉は隠してるけれどね」
とはいってもそれは出す言葉だけのことでだ、言葉を出すその調子はやはり尾張にいた頃から変わってはいない。
「ずっとそうだよ」
「あの長屋にいた時とだね」
「一緒だよ、うちの亭主もね」
羽柴、彼もというのだ。
「もう石高は立派なお大名様だけれど」
「それでもだね」
「根は一緒だよ」
「百姓なのね」
「そうさ、それで家に帰ったらね」
その時はというのだ、羽柴が。
「いつも私の漬けた漬けもので麦飯食ってるよ」
「白米も好きなだけ食べられるご身分になったのに」
「それでもなんだよ」
「あの人は変わらないのね」
「相変わらず。人懐っこい人だよ」
「そう言われるとあの人らしいね」
「そう思うね、おまつさんも」
菓子をひょいひょい口の中に入れつつだ、ねねは話していく。
「私もそう思うよ」
「何時までも飾り気のない」
「今じゃ帝から官位も頂いて立派な服も着るけれどね」
それでもというのだ。
「相変わらずだよ」
「うちのもよ。あれでね」
「まだまだやんちゃなんだね」
「そうよ、もう慶次殿と喧嘩ばかりして」
「あはは、そうらしいね」
「そうよ、もう何かあると殴り合って」
叔父甥でもだ、二人は年齢が近いのですぐにそうなるのだ。
「それで権六様に怒られる」
「尾張にいる時と変わらないね」
「全くだよ、根はね」
「そして私達も」
「そうだね、同じだね」
ねねはおまつに笑ってまた応えた。
「清洲にいた時と」
「そのままだね」
「全くだよ、それでこの戦が終わったら」
「その時はだね」
「うちの宿六にまただよ」
羽柴、夫である彼にというのだ。
「麦飯を炊いてね」
「それとだね」
「漬けものを出してね」
「迎えるんだね」
「そうするよ」
「じゃあうちもね」
おまつの方もというのだ。
「濁った酒を出すよ」
「又左さんの好
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