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戦国異伝
第二百四十七話 待つ者達その一

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                 第二百四十七話  待つ者達
 市は安土城にいた、その城の御殿の中でだ。
 西の方を見てだ、不安な顔で言うのだった。
「殿がご無事であればいいですが」
「戦に出られている殿が」
「ご武運があれば」
「はい、殿は強い方ですが」 
 それでもというのだった、控えている女御達に。
「ですが万が一ということもありますので」
「そうなのですね」
「そのことがどうしても気になられ」
「そのうえで」
「つい西を見てしまいます」
 その整った顔に憂いをたたえての言葉だった。
「ご武運を祈りつつも」
「市殿、それには及びません」
 その市にだ、彼女がいる部屋の麩の一つが開いてだった。
 そのうえでだ、帰蝶が部屋に入って言って来た。
「猿夜叉殿は帰って来られます」
「無事にですね」
「どの方もです」
 まさにとだ、帰蝶は市に微笑んで言うのだった。
「笑顔で帰って来られます」
「必ずですね」
「そうです、私達がすることはです」
「この安土において」
「上様達をお待ちすることです」
「落ち着いてですね」
「そうです、茶を飲みましょう」 
 実に落ち着いた顔でだ、帰蝶は市に言った。
「茶室に参りましょう」
「そしてそこで、ですね」
「共にお茶を飲みましょう、私が煎れさせてもらいます」
「それでは」
 こうしてだった、帰蝶は市を御殿の茶室のうちの一室に案内してだった、そこで二人だけになり自ら茶を煎れてだった。
 二人で茶を飲んだ、そうして一杯飲んでからだった。
 市はだ、帰蝶にこう言った。
「やはり一杯飲みますと」
「落ち着きますね」
「とても」
 微笑んでの言葉だった。
「こうした時はお茶ですね」
「そうです、気が落ち着く為にもです」
「お茶はいいものですね」
「そうです、それでなのです」
「私を誘ってくれたのですね」
「私も不安に思う時があります」
 帰蝶は微笑んでだ、市に自身のことも話した。
「上様がご無事か」
「帰蝶様もですか」
「ですが」
「それでもですね」
「あの方を待っています」
 この安土でというのだ。
「あの方が敗れることはありませんので」
「だからですね」
「そうです、すぐにこのことを思いますので」
「では」
「あと二週間もすればです」
「殿も帰って来られますか、兄上も」
「文が届く筈です」 
 それは、というのだ。
「吉報が」
「そうなりますね」
「ですから」
「それでは」
「ここで待ちましょう、今日は満月の日」
「では夜になれば」
「月を観ましょう」
 二人で、というのだ。
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